NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク
2004年の動向
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2004年の動向
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(1)ロシアが批准、京都議定書が発効
 2004年11月、ロシアは京都議定書を批准し、これによって2005年2月16日、ようやく地球温暖化防止の具体策を規定する京都議定書が発効した。
 日本の2002年度の温暖化ガス排出量は、1990年より7.6%増加した13億3,100万トンと報告*1されており、京都議定書の目標である6%減との差、13.6%削減を達成するのは非常に困難な状況である。目標達成のための主要な政策の一つとして、環境税が提案されているが、2005年初頭現在、議論が紛糾している。

 京都議定書発効に向けて、環境省は企業の自主的な排出量取引制度を2005年度から開始する方針を固め、一方、企業会計基準委員会はCO2排出権取引の会計基準づくりに乗り出した。2005年4月には、名古屋市で省エネ技術の移転を目的とする排出権取引所「NCTX名古屋環境取引所」の開設が予定されるなど、2004年も、様々な取り組みが行われた。
 2004年度の途上国での温暖化対策事業のクリーン開発メカニズム(CDM)事業化調査では、北海道電力がタイ、四国電力がロシア、東北電力がカザフスタンで、それぞれ廃棄物埋立処分場から発生するメタンガスを回収し、熱電供給を行う計画で採択された。メタンガスは優れた燃料であるだけでなく、大気中に放出されればCO2の約20倍の温室効果があるため、埋立地のメタンガス利用の温暖化防止効果は高く、注目されつつあるようである。


(2)広がるアジアでのバイオマス利用
 2004年は、中国や東南アジアでのバイオマス利用の動きがめだった。中国では、遼寧省・瀋陽市で2004年10月末からエタノールガソリンの全面使用に転換。穀物の転化利用や外貨節約の効果も実施の動機となっている。
 インドネシアではパームオイルを原料とするバイオディーゼルを10%添加した軽油の試験運用を開始。今後は、国内の軽油需要の10%にあたる160万キロリットルの生産をめざし、プラント建設を行い、減税処置などの優遇策の検討を行っている。フィリピンでも、2004年夏に、政府が所有するディーゼル車にココナツオイルを原料とする「ココバイオディーゼル」の使用を義務付けた。タイの工業相は、2年以内に国内のバイオエタノールの生産が10倍になると発言。輸出が低迷しているサトウキビの国内需要の押し上げや輸入原油の依存度を下げることを期待している。バイオディーゼル加工施設も建設、ミニバスなどに導入する。
 韓国や台湾でも再生可能エネルギー導入の機運が高まっており、2005年もこの傾向はさらに強まっていくものと考えられる。

(3)EU排出量取引制度が発足
 2005年1月、欧州連合(EU)は、域内の工場などを対象としたCO2排出量取引制度を発足させた。多国間の「炭素市場」としては世界最大。これに先立ってロンドン石油取引所(IPE)は排出権取引の開始を発表した。米国で排出権取引を手掛けるシカゴ・クライメート取引所との提携で排出権を金融商品化する。
 フランスではサトウキビやジャガイモ、大豆などを原料とするエタノールなどのバイオ燃料の国内生産を3年間で3倍近くの125万トンに増やす計画を発表。ドイツでは2004年6月、再生可能エネルギー国際会議が開催され、同会議では2015年までに世界の10億人が再生可能エネルギーを利用できるようにすることを目標とする政治宣言を採択した。
 米国では2004年11月、共和党のブッシュ大統領が再選され、京都議定書不参加の方針は今後4年間、変わらないものと見られる。一方、1バレル当り50ドルを超す原油高により、米国でもガソリン価格の高騰が続き、ビッグスリーが2004年に米国内で生産する自動車の1/4がエタノール対応車となり、全米のエタノール生産量は約1136万キロリットルと前年比17%増になると見られている。ニューヨーク商品取引所は2004年5月から、エタノールを対象とする先物取引を開始している。

ブラジルで販売されているバイオエタノール
(写真提供:刑部謙一)
サンパウロ付近のサトウキビ畑
(提供:刑部謙一)
 
刈り取ったサトウキビが洗浄されながら切断工程へ送られる映像
(ブラジルサンパウロ州サンタマリア製糖工場の好意により掲載)
※この動画は、クイックタイムによって閲覧できます。
クイックタイムは
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より無料でダウンロードできます。
 
薪を運ぶバングラディッシュ農村部の自転車
(提供:中田信夫)



バイオマス利用先進国と言えば、これまでスウェーデンやデンマーク、あるいはドイツといったイメージが強かったが、急速に注目が集まっているのが、オーストリアである。
 オーストリアの森林の大半は、オーストリアアルプスと呼ばれるように、日本と同じく急峻な山林である。30年ほど前まで林業が衰退していたが、合理化努力や政策によるテコ入れにより、林業の復興に成功し、日本にも製材品を輸出している。2004年には、バイオマス発電等による電力の固定額での買取制度を開始し、バイオマス発電が急速な伸びを見せている*2。こうした状況をうけて、伝統的な工業技術を応用した高性能の木質バイオマスエネルギー機器メーカーが次々創業・集積し、中・東欧へのこれらの機械の一大輸出拠点となっている。
 メタンガス利用でも先行しており、日本で導入されているメタンガス発電設備には、オーストリア製のものが多数含まれている。オーストリア第二の都市、グラーツではタクシー会社の6割でバイオディーゼル燃料(BDF)を採用、市バスのBDFシフトも進み、2005年中ごろには全市バスに普及する見込みといったように、BDF利用促進も行っている。
 駐日オーストリア大使館では、2005年4月にも、林業の再生と木質バイオマス燃焼機器普及を主題とするシンポジウム開催を予定している*3。
 日本のようにせかせかしないが、別に貧困ではない。重厚な歴史と豊かな文化を有し、現代生活と「スローライフ」を見事に調和させている国として、2005年、さらに関心が寄せられるようになるかもしれない。

*1 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/index.html
*2 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/902/902-2.pdf
*3 シンポジウムの情報についてはオーストリア大使館商務部HPを参照