2005年は、長期的気候変動政策を考える上で非常に大きな意味ある一年となった。
1月には欧州で排出量取引市場が正式に開始し、2月16日には合意から7年余の年月を経てようやく京都議定書が発効した。これを受け、12月にはカナダのモントリオールにて初めての京都議定書締約国会議が開催され、京都議定書第1約束期間の終わる2012年以降の目標設定議論への足がかりがつけられた。アメリカが京都議定書離脱を表明して以降、議定書の前途が不安定となっていたにもかかわらず、ついに議定書を中心とする国際的温暖化対策が軌道に乗り、将来の更なる対策への道筋がつけられた歴史的意義のある一年であった。
 とはいえ、今後の温暖化対策の道程はまだまだ長く、予断を許すものではない。危険な温暖化を避けるための究極目標がどの程度になるのか、その具体的な議論はまだまだ始まったばかりである。自然科学、社会科学を含めた現在の科学的知見を総合的に考えると「産業革命以前と比較して地球全体の平均気温上昇を2℃以内に抑える」というのが、温暖化対策究極目標の一つの基準となってきつつある。

 もちろん、平均気温2℃上昇といっても、地域によってはそれを優に上回る気温上昇が起こる地域もあるだろうし、そもそも2℃の気温上昇でも、かなりの影響が発生する可能性もある。ただ、最低限2℃上昇以下に抑えなければ、食糧生産や水資源などにかなり高い確率で許容しがたい悪影響が生ずることがわかってきており、また、国際的な経済社会開発の状況を考えると、それよりも気温上昇を抑制することは困難であろうこともわかってきている。

 それではこのような長期的目標を達成するためには、先進国である日本はいつ、どれほどの温室効果ガス排出削減が必要となるのであろうか? 私の研究室が国立環境研究所、京都大学、青山学院大学などとの共同研究で算出した試算では、日本は2050年に実に60%〜90%もの排出削減が必要となる(1990年比)*。これほどの数値を突きつけられると驚きを隠せないかもしれないが、これが我々の直面する現実なのである。

 実際、すでにEUでは明示的に「2℃」目標を掲げており、EU加盟国のイギリス、ドイツ、フランスなどといった国々もそれぞれ個別に、2050年の排出削減目標を60%〜80%という具体的数値で示している。京都議定書を批准していないアメリカでさえ、国家レベルでは目標設定をしていないものの、カリフォルニアなどの先進的州においては、すでに同様の数値を温暖化対策中長期目標として掲げている。政策的にも科学的にも、すでに上記数値は「夢物語」ではなく、現実のものとして認識されているわけである。

 このような排出削減を実際に達成するための対策はどのようにすればよいのであろうか。私の参加している2050年へ向けた温暖化対策シナリオ研究では、対策シナリオが、交通部門、都市部門、IT社会部門など極めて多岐にわたって検討されている。例えばハイブリッドカー利用を増やし、またそのための政策措置の導入などが必要になるだろう。あるいは、エネルギー供給サイドも化石燃料への傾倒を変える必要が出てくる。例えばバイオマスを最大限に活用するシナリオでは、一次エネルギーの35%強がバイオマスによって賄われることが期待されている。

 50年で60〜90%の排出削減。これほどまでになると、もはや対策を他人任せにしておくわけにはいかず、全社会的に「脱温暖化」社会へと移行していく必要がある。政策形成方法などを含め、長期的に持続可能な社会システムの構築へのチャレンジを本格始動するときに来ている。

<東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授 蟹江憲史>

*参考:脱温暖化2050プロジェクト