今年のはじめ総合資源エネルギー調査会の需給部会は、2010年度に向けての新エネルギー導入目標を定め、廃棄物を含むバイオマス発電586万kl(450万kW)、バイオマス熱利用308万klとした。当面の関心事は残された5年間にこの目標が達成されるかどうかである。

 まず発電についていうと、近年、数千kW以上の本格的なバイオマス発電プラントが各地で建設ないし計画されている。この勢いが続けば目標達成の可能性は大きい。ただしこれらの発電プラントは安価な廃棄物系のバイオマスに依拠したものだ。早くも燃料の奪い合いが顕在化しつつある。いずれは資源量の豊富な森林系のバイオマス(林地残材や低質の除間伐材)を利用することになるが、RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)下のバイオマス電力の取引価格は現在のところ8円/kWh程度で、コストのかかる森林バイオマスはとても使えない。バイオマス発電を伸ばすには後述するドイツなどの政策に倣ってこの点の改善が不可欠である。

 今回の需給展望ではバイオマス熱利用の目標値が大幅に引き上げられた。われわれからすると歓迎すべきことだが、喜んでばかりはいられない。たしかに、この数年来、化石燃料による熱供給を木質燃料に転換する動きが目立つようになった。中山間地においては、製材工場や食品工場、施設園芸、公共施設などで、既設の重油ボイラをチップボイラに換えようとする動きがある。チップの生産なら素材生産業や製材工場の既存の施設で簡単にできるからだ。また取扱いの便利なぺレットの導入を検討する地域も増えている。

 ただ、こうした木質燃料への転換が今後順調に進むかどうかは、燃料の安定供給はもとより、性能のよい燃焼装置の普及や機器の確実な据付と迅速な補修などを含むサービスの連鎖(チェーン)がうまく完結するかどうかにかかっている。石油価格の上昇という追い風があるにしても、このチェーンの完成にはかなりの時間を要するだろう。バイオマスの熱利用は発電よりも化石燃料代替によるCO2削減効果が大きく、その促進策がヨーロッパでも検討されている。

 さて、そのヨーロッパだが、木質エネルギーの消費が着実に伸びている。2004年におけるEU25カ国の推定消費量は石油換算で5,540万トン、前年に比べると5.6%の増になった。木質燃料による家庭暖房や地域熱供給の普及がようやく本格化してきた観がある。エネルギー関連の情報誌には実に多種多様な新発売のストーブや小型ボイラが掲載されていて、その盛況振りがうかがえる。

 木質バイオマスによる電力生産においてもEU全体で35TWhになり、前年比23.2%の伸びを記録した。とくに目に付くのはドイツの急伸で1.6倍になっている。この国では2004年に再生可能エネルギー源法(EEG)の一部を改正して、農林業残滓を利用した小規模電力の買取価格を大幅に引き上げ、5MW以下のコージェネプラントで電気をつくると1kWh当たり14.9〜19.5ユーロセント(日本円で20〜26円)で売れるようになった。こうした措置がドイツのバイオマス発電を押し上げている。

 2005年のEUで特記されるのは、この年の1月に排出枠取引(ETS)が始まったことだろう。これは京都議定書に定められた温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を達成するためのものだが、産業界などから競争力の低下につながるとして反対する意見が多く、一時は発足が危ぶまれたほどである。市場取引が始まって当初はCO2トン当たり7ユーロほどの値がついていたが、その後徐々に上昇して7月には30ユーロ近くまでになった。これは事前の予想を大きく超えるものであり、カーボンニュートラルな木質エネルギーにとって有力な追い風になるという観測が広まっている。近い将来日本でも同じようなことが実現すれば、木質燃料による熱供給で炭素市場に参入することも夢ではない。

<岐阜県立森林文化アカデミー学長 熊崎実>