はじめに

2008年の年明け早々、原油価格は100ドル/バレルを突破した。安い石油に支えられた産業社会は、もはや過去のものになりつつある。いよいよ日本も世界も、持続可能な社会への方向転換のハンドルを切らなければ、生存すら危うくなってこよう。米国型の大量消費物質文明は今後繁栄しようがなく、折りしもEUが経済規模や人口でアメリカを抜き、気がつくとユーロが国際通貨として台頭しつつある。今年は、米国没落の年となるのかもしれない。

さて、2007年のバイオマスで最大の話題は、何と言ってもバイオ燃料ブームで、大暴風雨が吹き荒れるがごとき一年だった。国内でも免税への道が開かれるなど、数年前には不可能と考えられたことが次々実現しているが、バイオ燃料推進が本当に最適な政策なのだろうか。そもそも日本でバイオ燃料を利用する最大の目的は、温暖化対策である。そしてエネルギー安全保障、農業や地域活性化などが続く。それらの目的に対して、バイオ燃料は果たして優れた方策なのか。国産バイオ燃料の最大の問題点は、エネルギー収支であろう。生産されたエタノールより多いエネルギー投入(特に石油)を行なうことは、エネルギー生産として意味がない。本白書でも掲載されている通り、世界的にも温暖化対策として向かず、費用対効果としても疑問があるバイオ燃料利用例が多数存在することは明らかである。

また、持続可能なバイオ燃料の基準づくりも、早急に着手する必要がある。基準によってすぐさま問題が解決されはしなくても、手をこまねいているより、基準を形づくり、様々な人々の知恵で改善していく方が、おそらく事態をよりよい方向に変えていくことができるだろう。念のため申し上げておくが、決してバイオ燃料の利用を否定しているわけではない。バランスを考えた、持続可能な利用を考えては、と提案しているのである。

さて今後、日本国内では、メタン発酵で出る液肥の農地還元や木質バイオマスのボイラー利用など地道なバイオマス利用を、強力に推進すべきであろう。日本のバイオガスプラントのほとんどでは、液肥の農地還元ができないため、コストとエネルギーをかけて水処理を行なっており、事業採算性とエネルギー収支を悪化させている。いくつかの先進地域で行なわれているように、地域の農業者とネットワークをつくり、液肥の成分について確認し、価格や運搬の便宜などを交渉しながら、利用を進めていくことが望まれる。脱石油農業にも結びつく。

またこれまで、特に行政主体のバイオマス利用事業の多くで採算が取れなかったり、原料が計画通り集まらず停止している例が見受けられる。化石燃料と相当異なった点があるバイオマス資源利用には、制度の壁も含め、さまざまな困難があるが、税金の無駄遣いと言われる前に、なぜうまくいかないかをそろそろ検証する必要があるのではないか。

話は変わるが、世界を放浪した後、広島でNPO活動をしている女性が、「南米の熱帯林破壊や、バングラディシュの水没や、先住民の人々が石炭鉱脈のある土地から強制移住させられるといった問題が、すべて自分のうちの裏山とつながっていることがわかりました。地元の木材やバイオマスを利用することで、私たちにできることがあるんです」と語った【*】。

バイオマスはうまく使えば非常にすばらしい資源だが、誤った使い方をすれば目も当てられない事態となる。そこが醍醐味でもあり、面白さでもある。今年も持続可能な社会を目指す人々とともに、マイペースに取り組んで行きたいと考えている。

<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

*アース・ガーディアン誌2007年3月号「バイオマス人物列伝」より