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トピックス 木質バイオマス利用をめぐる現状と課題

2 固体バイオマスの持続可能性

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1. バイオマスの持続可能性

1で見たように、現在の一般木質バイオマス発電の認定は200万kWにのぼる。さらに2015年に発表された「長期エネルギー需給見通し」において、一般木質バイオマス発電の2030年の導入見通しは最大400万kWとなっているが、これは単純計算で8,000万㎥程度の木材が必要である【*14】。世界の木質ペレット貿易量は780万t(EU域内を除く)程度にすぎず、チップ貿易量も3,500万t程度である。現在、ヨーロッパでは大規模な木質ペレット工場が建設・計画されているが、一方でバイオマス需要の高まりから、EU域外からのペレットの輸入が2020年までに1,500万t-3,000万tへと増加する可能性があると指摘されている【*15】

ブラジルのバガスを原料とするペレット製造および日本への輸出【*16】なども始まろうしているが、いずれにしろ、2,000万あるいは4,000万㎥という新たな木材需要は、世界の木材貿易にとってもインパクトが大きく、持続可能な調達のハードルは、非常に高い【*17】

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京都議定書において、バイオマス利用はカーボンニュートラル(炭素中立)であり、温暖化の原因とならないと見なされた。しかし、ほとんどのバイオマスの生産・加工・輸送には化石燃料が使われ、メタンガスや亜酸化窒素などの温室効果ガスが発生する場合もある。例えば、木材を伐採、搬出するにあたって林業機械の燃料に石油が使われ、チップ工場やペレット工場でも電力や動力が使われる。遠距離の運搬をすれば、輸送にも石油が使われる。例えば、下図はEUによる研究結果だが、地域の材からつくられたチップを熱利用に使えば、化石燃料に比べ90%以上の温室効果ガス削減効果があるが(左赤丸)、遠距離を運ばれたペレット(工場の動力は天然ガス)による発電であれば、削減効果は10%にまで落ちる(右赤丸)。

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図:固体バイオマスの温室効果ガス削減効果標準値【*18】

図:固体バイオマスの温暖化ガス削減効果標準値*18
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また、自然林を伐採しアカシアやユーカリなどの早生樹をモノカルチャー植林し生産されたバイオマスでは、土地利用転換にともなう温室効果ガス排出のほか、生物多様性損失や、土地をめぐる紛争を引き起こすおそれがある。例えば、下の写真は、マレーシア、サラワク州ビントゥル省の先住民が先住慣習権(NCR)を主張している土地において、政府系企業が造成、アカシア造林事業に着手し、その事業に反対する地権者の先住民が植栽されたアカシアを焼き払った後の様子である。

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サラワク州・先住民が植栽されたアカシアを焼き払った後の様子

写真提供:FoE Japan

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英国では2010年より固体バイオマスの持続可能基準を導入した【*19】。オランダも間接的土地利用転換を考慮した固体バイオマス持続可能性基準を策定している【*20】。オランダは、事業者向けの固体バイオマスの持続可能性認証ガイドも作成している【*21】

日本でも、ガソリン比の温室効果ガス削減が50%以上、食料との競合および生態系への影響の回避を内容とする、液体バイオ燃料(エタノール)の持続可能性基準を導入ずみである【*22】。さらに、日本も策定に加わった、世界バイオエネルギー・パートナーシップ(GBEP)のバイオエネルギー持続可能性指標【*23】にあるように、土地所有権や労働問題などを含めた社会への影響を含む固体バイオマス持続可能性基準の策定を図るべきであろう。

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2. 日本の現状の制度

日本の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)では、林野庁の「木質バイオマス発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドラインQ&A」において、輸入木材では「『木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン』に基づく合法性の証明書」を要するとしている【*24】

「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」では、具体的には、⑴ 森林認証制度及びCoC認証制度を活用した証明方法 ⑵ 森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法 ⑶ 個別企業等の独自の取組による証明方法 の3つの方法が記されている【*25】

このガイドラインでは、対象となる法律を、「原木の生産される国又は地域における森林に関する法令」としているが、国・地域によって異なるどの法令がその範囲になるのかが明確ではない。また、事業者は対象となる木材・木材製品が合法なものであるかどうかについて、証明書を提出してもらう以上に調査することは求められていない。日本がこれまでにも木材を輸入している国によっては、輸出証明書の信頼性に疑問が投げかけられており、証明書という紙切れだけに頼る制度での実効性は、十分ではないと考えられる【*26】

国際刑事警察機構(インターポール)によると、国際犯罪ネットワークは違法伐採木材から300億米ドル(約3.3兆円)以上の資金を入手しており【*27】、国際的に重大な問題となっている。マレーシアのサラワク州から日本に大量の合板が輸入されているが、同地域は世界で最も森林減少のスピードが速く、深刻な汚職が多数報告され、土地の利用権をめぐる訴訟が100件以上起こっている【*28】。米国やEUでは、違法伐採木材の輸入を取り締まる法律を施行しており、日本でも2016年通常国会で審議されている。制度の実効性を高めるには、事業者にデュー・デリジェンス(適切な注意)を義務付けるといった方策が必要だと考えられる。

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3. 海外の動向

国際標準化機構(ISO)は、2015年9月、バイオマスエネルギーの持続可能性基準(ISO/13065:2015 Sustainability criteria for bioenergy)を発行した。環境の原則・基準として、温室効果ガス、水、土壌、大気、生物多様性、エネルギー効率、廃棄物を、社会的原則・基準として、人権、労働者の権利、土地利用権および土地利用変化、水利用の権利を、経済的原則・基準として、経済的持続可能性を挙げている【*29】。世界バイオエナジー協会(WBA)も、持続可能なバイオマス認証スキームを提案している【*30】

また、固体バイオマスの持続可能性に特化した認証制度「Green Gold Label」が2002年につくられ、オランダや英国の固体バイオマス持続可能性基準に事業者が対応するためのツールの一つとして使われている。Green Gold Labelでは、FSCなどの木材認証と同様に、審査員が実地検査を行い、購入履歴、年間生産記録、出荷記録等を確認し、サプライチェーンのそれぞれで材料追跡(トレーサビリティ)を保証するものである【*31】。こうした認証制度の利用も、持続可能性を担保する一つの方法であろう【*32】

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4. 提言

NPO法人バイオマス産業社会ネットワークおよび一般財団法人地球・人間・環境フォーラム、国際環境NGO FoE Japan、NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)等は、2015年10月より「固体バイオマスの持続可能性確保に関する調査研究・啓発活動」を開始し、2016年1月、「日本におけるバイオマスの持続可能な利用促進のための原理・原則〜適切なFITの設計のために〜<改訂版>」を策定・発表した【*33】

そこでは、3つの原理・原則として 1)真の意味での温室効果ガス(GHG)削減への寄与 GHG削減量の適切な計測と、最低基準の設定 2)健全な生態系の保全 土地利用計画・森林計画等の中での生態系保全や他の生態系サービスと調和可能なゾーニングと透明性の高い計画策定プロセス 3)経済・社会面での配慮、合法性の確保 を挙げている。また、動画「なぜ今、固体バイオマスの持続可能性基準が必要なのか?」【*34】も作成・発表した。

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