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トピックス 木質バイオマス利用をめぐる現状と課題

2 固体バイオマスの持続可能性

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1. バイオマスの持続可能性基準とは

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)における木質バイオマス発電の稼働や認定が急増しているが、その燃料となるバイオマスの持続可能性に関心が高まっている。前述の「平成29年度以降の調達価格等に関する意見」にもとづき、産業省では現在、固体バイオマスの持続可能性基準について海外の事例などの情報収集を行っている。
 バイオマスの持続可能性基準は、2007年頃バイオ燃料が世界的ブームになった折、パーム油由来のバイオディーゼルやトウモロコシエタノールなどの大量のバイオ燃料導入が、食糧との競合や熱帯林減少の要因となり、森林を開拓した場合などはむしろ温暖化対策に逆行するといった批判が出て、各国で導入されているものである【*5】。日本でも、下記のような液体バイオ燃料(エタノール)の持続可能性基準が、2010年から導入されている【*6】

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2. 英国の固体バイオマス持続可能性基準

固体バイオマスの持続可能性基準は、すでに英国、オランダ、ベルギー、デンマークなどが導入している。英国の例では、固体バイオマスの持続可能性基準は、「土地基準」と「温室効果ガス基準」の2つからなっている【*7】。このうち土地基準は、内容的にはFSCなどの森林認証制度でカバーされるもので、持続可能な管理がなされる森林由来の木材であること、トレーサビリティが確保されることが求められる。
 温室効果ガス基準では、電力メガジュールあたりの温室効果ガス排出の目標値が設定されている。バイオマスはカーボンニュートラル(炭素中立)と言われるが、実際には、生産、加工、輸送などに化石燃料が使われ、その他メタンガスや亜酸化窒素などの温室効果ガスが排出される場合もある。例えば林地残材由来のペレットであれば、林地から運び出す際の林業機械の燃料、ペレット工場の動力、輸送トラックの燃料等である。ペレット工場の動力が木材か天然ガスかで、温室効果ガス削減効果は大きく異なる。また、輸送手段にもよるが、輸送距離が長くなるとその分、輸送用燃料も消費する。

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英国の基準では、35%の発電効率の場合、ユーカリチップのデフォルト値は現在の目標値に適合しない(下図)。2025年の目標値ではさらに厳しくなり、ユーカリなど熱帯・亜熱帯の短期伐採林由来のペレットも適合しなくなる。この図のペレット工場の動力は、すべて木材である。なおこれは、個別に計測する必要のない既定値(デフォルト値)で、40%保守的(高め)な値となっているため、個別の実測値では目標値に適合する場合もありうる。

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図:英国の固体バイオマスのデフォルトCO2排出原単位と発電効率35%の場合の目標値

図:英国の固体バイオマスのデフォルトCO2排出原単位と発電効率35%の場合の目標値

出所:注7と同じ(作成:バイオマス産業社会ネットワーク)

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3. 削減効果が高いのはどんなバイオマスか

下図は、英国が採用しているEUの固体バイオマスの経路に基づく、木質ペレットの温室効果ガス排出デフォルト値である。この図からも見られるように、一般に、温室効果ガス排出削減効果が高いバイオマスは、以下の通りである。

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①廃棄物、廃材、製材端材、林地残材、残さ:これらは、一般的に生産に関わる排出は計上されない、もしくは全量は計上されないので、排出削減効果が高い。逆に植林木からの全木ペレットは、植林など木材生産に関わる排出が全量加算される。②ペレット工場の動力など、加工に化石燃料を大量に使わないもの。③輸送燃料をあまり使わないもの。④燃料をつかうバイオマス発電所の発電効率が高いほど、あるいはコジェネレーションで熱利用を行い総合効率が高くなると、削減効果は高くなる。

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図:EUの木質ペレットの温室効果ガス排出デフォルト値

図:EUの木質ペレットの温室効果ガス排出デフォルト値【*8】

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つまり、近場の廃棄物系か未利用のバイオマスの削減効果が高く、エネルギー植林によるペレットを遠方から運ぶと、削減効果が低くなりやすい。

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日本の固体バイオマス持続可能性基準が導入されるかどうかや、導入される場合の詳細はまだ不明だが、FIT買取は20年という長期にわたるため、将来のリスクとして、こうした点にも注意しながら事業を行っていく必要があろう。

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4. 木材の持続可能性の確保

木材の持続可能性が特に問題となるのは、「未利用材」および「一般木材」に含まれる、森林由来の木材である。現行のFIT制度では、国産材では、森林経営計画等や伐採届からのトレーサビリティの確保によって、環境・社会面での持続可能性をはかることとなっている。
 木質ペレットやチップの輸入バイオマス材については、林野庁の「木質バイオマス発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドラインQ&A【*9】」において、輸入木材には「『木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン』に基づく合法性の証明書」を要するとしている。「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン【*10】」では、具体的には、①森林認証制度及びCoC認証制度を活用した証明方法 ②森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法 ③個別企業等の独自の取組による証明方法 の3つの方法が記されている。
 例えば、日本製紙連合会では、下図のような合法証明システムを構築し、会員企業に勧めている【*11】

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図:製紙業界の違法伐採対策(合法証明システム)

図:製紙業界の違法伐採対策(合法証明システム)

出所:上河潔資料

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また、NPO法人バイオマス産業社会ネットワークが2016年に行った木質バイオマス発電事業者向けアンケート調査では、調達/調達予定の輸入バイオマスとして、カナダ産製材端材ペレット、米国・オーストリア産製材端材・植林木・二次林のチップ、ベトナム産建設廃材ペレット、ベトナム産ユーカリペレット、タイ産アカシア植林ペレット、中国産製材端材ペレット、ロシア産製材端材ペレットなどが挙げられた。また、合法木材証明の方法としては、FSC、PEFC、AFS、GGL等の森林・バイオマス認証、全国チップ工業連合会による団体認証、といった回答があった。
 合法性確認の方法としては、サプライヤーのCoC取得確認、購入する木質バイオマスの森林認証を確認、自社社員による確認、原産国のカントリーリスクを確認するといった方法がとられている。クリーンウッド法や持続可能性基準などの木材の持続可能性についての理解には、ばらつきがあった【*12】。現在のところFSCなどの森林認証によって、バイオマス発電向け輸入バイオマスの合法証明としている例が多い模様である。
 また、日本木質バイオマスエネルギー協会は2016年、「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン 運用マニュアル」を作成している【*13】

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5. クリーンウッド法の施行とデューディリジェンス(念入りな確認)

従来の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」は、ガイドラインであり法律ではないこと、合法性の対象となる法律の範囲が明確でないこと、デューディリジェンス(念入りな確認)が入っておらず、合法性の確保の実効性に疑問があることなどから、2017年5月「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称「クリーンウッド法」【*14】)が、施行された。同法の対象には、木質ペレット、チップ及び小片が含まれ、バイオマス発電事業者は、同法の第二種木材関連事業に入っており、合法性の再確認を求められている。

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ただし、同法と、英国などで導入されている固体バイオマスの持続可能性基準の違いは、持続可能性基準では、合法性は必要条件だが、それだけで十分とするものではない、という点である。日本が木材やバイオマスを輸入する生産国の中には、生態系保全や人権などの面で、法の要件を満たすだけでは、環境・社会面での問題を防ぎきれない場合がある。
 英国の持続可能性基準では、エコシステムへの影響が最小化されている、生産性・生態系の健全性・生物多様性が維持されている、地域の管理責任者は、労働者の健康と安全と福祉に関する地方および国の法律を遵守し、土地利用と所有の法的、慣習的伝統的な権利を配慮している、上記が保障されるための適切な監査がなされている、といったことが、木材が持続可能な供給地から来ていることを示すとしており、具体的には、FSCなどの森林認証や、欧州の事業者主体でつくられたサステナブル・バイオマス・パートナーシップ(SBP)といった制度などによって、遵守が示されるとしている。
 森林認証を取得したバイオマスとしてサプライヤーから提供を受ける場合も、英国のようにCoC認証番号が有効かどうか、認証の有効期限内かといった点は最低限、確認しておくべきであろう(下図)。

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図:「すべての認証木質燃料及び原料の証明書の確認」

図:「すべての認証木質燃料及び原料の証明書の確認」【*15】

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トレーサビリティの実効性をさらに高めるには、生産国のリスクに応じて、自身や第三者の専門家によって確認する方がより確実である。そうしたコストを避けるのであれば、リスクが少ない国から輸入する選択肢もある。ある先進的な輸入バイオマス発電事業者は、「もし、問題が生じてFIT認定を取り消されれば、発電事業が成り立たたなくなる」ことから、監査会社社員に自社社員が同行し、原料の産地からサプライチェーンを確認している例もある。このように、費用対効果を考慮しつつ、リスクを最小化することが重要だと考えられる。

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コラム① 日本のFIT制度におけるパーム油発電の問題

最も深刻な環境・社会問題を抱える農産物

パーム油はアブラヤシの油で、世界で最も多く生産されている植物油である。生産コストも低く国際価格も安いことから、数ある植物油のなかでも競争力を有している。生産量は年間5,000万トンに上り、ほとんどは、食用に向けられている。インドネシア、マレーシアなどの生産国において多数の雇用を生み出し、重要な産業の一つだが、同時に、最も多くの深刻な環境・社会問題を抱えている農作物でもある。
 ボルネオ島、スマトラ島など世界でも貴重な熱帯林と新規アブラヤシ農園開発地域が重なり、これらの地域の森林減少の最大要因となり、オラウータン、ゾウ、スマトラトラ、サイなど絶滅の危機に瀕している種が脅かされている。

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アブラヤシ農園開発で行き場を失ったオランウータン(インドネシア・カリマンタン島)

アブラヤシ農園開発で行き場を失ったオランウータン
(インドネシア・カリマンタン島)

写真:Centre for Orangutan Protection

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特に、バイオマスとしてのパーム油には、温暖化対策に逆行するという致命的な問題がある。持続可能なパームオイルのための円卓会議(RSPO)による委託調査によると、パーム油のCO2排出係数は石炭よりも高い。これは、泥炭地開発により大量のCO2が排出されるためである。ボルネオ島やスマトラ島の熱帯泥炭地は低地にあり、長年にわたり寿命を終えた倒木が水につかることで分解が妨げられ、何百何千年分もの炭素が蓄積されている。これが、アブラヤシ農園開発によって水が抜かれると、泥炭が分解し始め、大量のCO2が放出される。農園開発のため、法で禁じられているが火入れがされることも多く、森林火災の原因となっている。
 土地をめぐる住民との紛争も多発している。マレーシアのサバ、サラワク州やインドネシアでは、先住民などに慣習的な権利があっても、地方政府が企業に開発許可を出すことが多くあり、インドネシアでは、アブラヤシ農園開発許可をめぐり4,000件以上の紛争が生じている。政府のガバナンスが脆弱で開発企業の違法行為を監視・監督できず、汚職もまん延している。近年は、労働問題にも国際的な注目が集まっており、米国国際労働局は、パーム油を児童労働、強制労働の関与が認められる製品に指定している。
 こうした多くの問題に対応するため、2004年に持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)が設立されたが、加盟企業が生産するパーム油も全量が認証油とは限らず、認証油はまだ2割程度でしかない。加盟企業による、現場での行動原則違反や認定停止も起きており、認証だけでは持続可能性を担保できないのが現状である。

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ガイドラインの導入と食料との競合の回避

このように多くの問題があるパーム油だが、日本のFIT制度では、一般木質バイオマス発電の燃料として認められ、FIT認定される例もあった。しかし、上のような問題が生じていることから、2017年3月に資源エネルギー庁が出した「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」において、農作物の収穫に伴って生じるバイオマスの場合には、流通経路が確認できること(トレーサビリティがあること)や持続可能な燃料使用に努めること、食料との競合への配慮を求められることとなった。本ガイドラインの施行により、食用となるRBDパーム油、オレインなどは食料との競合を回避することが求められるようになった。もともとパーム油は、FIT制度で優遇すべき燃料とは考え難く、持続可能なバイオマス利用へ向けて、さらに取り組みを強化すべきと言えよう。

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6. 木質バイオマス利用のマトリックス

木質など固体バイオマスの用途は、世界的にコジェネレーション(熱電併給)を含む熱利用が主である。下記は、下表は、日本における各種バイオマス利用の概要を、マトリックスにまとめたものである。

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表:木質バイオマスのエネルギー利用マトリックス

作成:泊みゆき
*この表では一般的な特徴を捉えたものであり、例外的事例は考慮していない

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小規模コジェネレーションは、ヨーロッパでの成功事例は多く、事業の基本的条件はよいと考えられるが、日本では導入が始まったばかりである。必要とする燃料は少ないが、含水率の低いチップやペレットなど高い品質が求められることが多いので、注意が必要である。
 5000kW規模の未利用木質バイオマス専焼発電は、採算がギリギリで発電効率は20%台と低く、10万㎥と大量の未利用材の安定的な調達が必要で、難易度が高い。かつ、歴史的に見ても、こうした利用はFITのようなしくみがないと成り立たない【*16】。今後、FIT制度からの自立を考えた場合、永続的な利用方法ではないと考えられる。
 大規模木質バイオマス専焼では、輸入バイオマスを使うことが多く、エネルギーセキュリティや地域経済への貢献は少なくなる。また、遠方からのバイオマス輸送には石油を消費する。
 石炭混焼では、燃料を岩手県釜石市の新日鉄住金のように地元の未利用材を調達するのであれば、地域経済への貢献が期待できる。

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この表の中では、熱利用(詳細はトピックス3を参照)に次いで、ごみ発電の総合的評価が高い。ごみ発電は発電効率が低いのが欠点だが、熱利用を拡大できれば、総合利用効率を上げることができる。大きな熱需要のある工場や農業施設を周辺に誘致することも考えられる。デンマークでは、わらなども燃やし、廃棄物コジェネレーション施設の排熱を、熱供給網で利用している。ごみ発電がFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の認定を得ていれば、未利用材や一般木材で発電した分はそれぞれ1kWhあたり、32円、24円で買い取られる【*17】
 地域の木質バイオマス発電では、未利用材を6000円/生トン程度で買い取る例が多いが、ごみ発電用の破砕場所に持ち込まれると、そうした価格で買い取るしくみがあれば、リスクやコストを少なくして地域の未利用材の利用ができる。各地で扱いに苦慮している竹についても、同様に定額で買い取る、といったしくみは、導入しやすいと考えられる。竹単独で何かに利用しようとしても、一定額でプラントで必要とする量を安定的に集めることが難しいが、ごみ発電なら、集まった分を燃やし、発電や熱に使うことが可能である。
 このように、総合的に判断しながら木質バイオマス利用を考えていくことが重要だと考えられよう。

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7. 石炭火力発電混焼の是非

欧米では、石炭火力発電は縮小の方向へと進んでいるが、日本では10万kWクラスを含め、新設計画が相次いでいる。経済産業省は、政府の温室効果ガス削減目標を受けて、省エネ法の規制強化を進めており、10万kW規模の中小石炭火力は、バイオマス混焼かコジェネレーションでないと今後の新設が事実上困難になると見られる。
 現状では、バイオマスの混焼率は数%であり、これをもって化石燃料で最も熱量あたりのCO2排出の多い石炭火力を増大する理由は乏しい。一方、数十万kWの石炭火力の数割にバイオマス混焼しようとすると、10万トン単位のバイオマスが必要になる。このような大量のバイオマスは、輸入でなければ調達が困難である。天然ガスのCO2係数は石炭より40%少なく、つまり、新設の石炭火力にバイオマスを混焼するなら、40%以上の混焼率にしないと同じ発電効率の天然ガス発電よりCO2排出量が多くなる。固体バイオマスの持続可能性を考慮すれば、バイオマスは実際にはカーボンニュートラルではなく、特に遠距離を運搬する輸入バイオマスの場合、温室効果ガス削減効果はさらに低くなる。

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そもそも世界的にも、バイオマスのエネルギー利用の主流は、熱利用である。バイオマス発電は、製材工場や食品工場など、燃料が集めやすく熱需要があるところでコジェネレーションを行うほかは、地域の廃棄物発電に雑多なバイオマスを集約し、できるだけ熱利用を行っていくというのが、経済的負担を最小にしながらエネルギー自給や地域経済に最も貢献すると考えられる。下表のように、5万kW以上の石炭混焼を含む大型バイオマス発電所の計画・稼働が相次いでいる。国民負担の問題とともに、日本でバイオマスをどのように利用すべきかを今一度、検討する必要があろう。

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表:2012年以降に計画・稼働されている主な大型バイオマス発電事業

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