燃料電池とバイオマス資源の利用


 燃料電池は、二一世紀の産業社会を革命的に大転換させる「キー・テクノロジー」として注目を浴びている。
 経済産業省が2001年1月に発表した試算では、燃料電池の市場規模は2010年に日本国内では約1兆円、2020年には約8兆円と予測している。
燃料電池は、水素と空気中の酸素を電気化学的に反応させて、水の電気分解とは逆の反応をさせて電気を生む発電装置である。排出されるのは水だけで、非常にクリーンな発電装置である。

 燃料電池が発明されたのは160年も前だが、コストが高すぎることなどから実用化されず、長い間忘れられていた。20世紀校半になって、米国のジェミニやアポロといった宇宙船に使われ、再び脚光を浴びるようになった。
現在開発中の燃料電池には、主にリン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)、そして最近注目の固体高分子型(PEFC)の4つがある。

 固体高分子型燃料電池は、1989年にカナダのバラード社がイオン交換膜を使った燃料電池を発表して以後、非常に注目を浴びるようになった。低温で作動し、電流密度が非常に高く、小型で高出力で高効率の燃料電池開発に道を開いたからである。

 ダイムラー・クライスラー社(当時はダイムラー・ベンツ社)は、1994年に世界初の燃料電池自動車であるNECAR1を発表。その後、NECAR2、3と次々に開発を続けた同社は1997年、2004年に燃料電池自動車を量産化すると発表した。他の自動車メーカーもこれに追随して燃料電池自動車の開発に着手し、莫大な開発費用は、自動車メーカーの合併連合の主な要因にもなり、現在、熾烈な開発競争が行われている。


燃料電池の四つのメリット

 燃料電池の利点としては、第一に省エネルギー性で優れている。例えば自動車なら、ガソリン車の走行時のエネルギー効率が約20パーセントだが、燃料電池自動車では約四○パーセント以上になる。
また、燃料電池は、電力を使う場所で発電することができるため、大規模な火力発電所では困難な熱利用が可能であることや、遠距離を送電することで生じる送電ロス(四パーセント程度)がない。そうしたことから、廃熱をうまく利用すれば、燃料電池のエネルギー効率は、70〜80パーセントまで高められると考えられている。

 第二の利点としては、燃料電池は水しか排出せず、窒素酸化物や硫黄酸化物といった大気汚染物質、あるいは温室ガスである二酸化炭素を全く出さない(水素生成過程は除く)。 

 第三に、燃料電池の燃料である水素は、非常に幅広い燃料から取り出すことができる。水素は、天然ガス、ガソリン、メタノール、エタノール、ナフサ、ジメチルエーテル(DME)、メタンガスなどから改質して得ることができる。後述するように、メタンガス、メタノール、エタノールなどは、バイオマスからつくることができる。また、太陽光、風力、水力、地熱といった自然エネルギーによる水の電気分解からも水素を取り出すことも可能であり、石油代替エネルギーとして、幅広いエネルギー源の活用が期待できる。

 第四に、自動車、家庭用や事業用などの発電装置、家電など幅広い用途に使うことができる。例えば家庭用発電機としては、給湯器のように都市ガスなどを燃料として発電を行い、その際に発生する熱も利用することができる。

 さらに、ノートパソコンや携帯電話など家電製品に使うポータブルな電源としての開発も進んでいる。米モトローラ社と米ロスアラモス国立研究所が開発した小型燃料電池は、二・五センチ四方、厚さ二・五ミリ程度の大きさで、携帯電話を1ヵ月以上、ラップトップ・コンピュータを20時間以上稼動させることができるという。充電の手間をなくすことができ、利便性が大いに上がる。

 米国の固体高分子型燃料電池の採算に乗っている採用の第1号が信号機であるように、送電線やコードやプラグなしに、電力を使うことができる。自動車など輸送機器の他、農業用発電、林業用発電、さらにイベント用発電、災害時発電や探索機などにも適している。

 これまで燃料電池の普及には、コストと容量がネックとなっていたが、固体高分子型燃料電池は、量産できる技術であることがブレークスルーとなっている。キロワットあたりのコストでは、火力発電・原子力発電で20万円前後だが、量産化された場合の家庭用燃料電池が十万円程度、自動車用燃料電池で5千円になると見込まれている。現在、自動車メーカー、家電メーカーなどが燃料電池と関連装置の開発で熾烈な競争を繰り広げており、10年後にはインターネットなみに普及すると予想されている。

 振り返れば、10年前には、インターネットはほとんど普及していなかったが、現在では産業社会に定着しつつある。それと同じように、10年後には燃料電池が普及していくものと考えられている。

 バイオマス資源の燃料電池への利用として、最も適しているのは、生ゴミや家畜糞尿などを発酵させてつくったメタンガスから水素を取り出して利用する方法だと現在考えられている。というのは、メタンガスは天然ガスの主成分であり、天然ガスをつかったインフラストラクチャーを利用することが可能だからである。

 鹿島建設は、生ゴミを微生物で発酵させて発生させたメタンガスから水素を取り出して、燃料電池で圧電するシステムを実用化している。またシロアリは、木くずなどの有機物を食べてメタンをつくっているが、これを工業的に行う技術も開発されている。

 その他、木屑や農業廃棄物などからメタノールやエタノールなどを製造してそこから水素を取り出す方法も考えられる。

 燃料電池の導入当初は、天然ガスなどが使われるケースが多いと思われる。ただし、燃料電池などによる分散型エネルギー供給システムが地域のネットワークとして構築されれば、バイオマスエネルギーも、その中で大きなポテンシャルをもつものとして活用されよう。

参考文献
金谷年展他著『マイクロパワー革命』TBSブリタニカ