バイオマス燃料の利用及び持続可能な開発の機会としての
  燃料電池プロジェクト


ダイムラー・クライスラー上席副社長 フェルディナンド・パニック

 持続可能な開発のための仕事は、非常にエキサイティングなものです。ポエマ計画の仕事ができたことは、私にとって非常に幸福であり、誇りでもあります。一方、燃料電池プロジェクトも、バイオマス燃料を利用した、持続可能な開発のための別のステップです。
 これまでブラジルで行ったプログラム、あるいはこれまで学んできたことというのは、従来通りの、もともとそこにある技術を使わなければならない、ということです。同時に、バイオマスを使うことが重要であるということがわかりました。

 ブラジルというのは、非常に長い伝統を持っています。バイオマスを長い間使っていて、天然ゴムの生産は200年ぐらい前から進められています。
 アマゾンのマナウス−サンタレン−ベレンといった地域で、天然ゴムの生産がなされています。これは非常に重要な産業であり、天然資源の中でも、特に天然ゴムが使われています。ゴムの生産は、現在でもブラジルの重要な産業で、投資に対する回収は、毎年50億ドル程度の収入につながっています。非常に産業化された生産となっています。

 天然の繊維を自動車部品に使うというプログラムは、何年か前に始まりました。天然繊維は加工がしやすく、リサイクルもしやすい、そして軽量で、コストも低いということが挙げられます。
 また、農業セクターの人々の収入源になるということで、非常に役に立ちました。トラックの燃料エンジンの部品にこれらが使われています。またそれ以外に、ココナッツ繊維やラテックス(生ゴム)がバックシートに使われています。

 ポエマ計画の基本的なプログラムは、天然繊維を利用したこれらのプログラムでした。天然素材を使う原則ですが、色々なメリットがあるゆえに、天然素材を使っています。再生可能な資源であること。化石燃料とは違って無限に生産可能であること。環境に適合的である、環境に危険な物質は含まれていないということが挙げられます。そして自動車部品に使用した場合、リサイクルできるということも挙げられます。

 植物性の部品は、メルセデス・ベンツの非常に厳しい要件を満たすようなすばらしいものです。トラックやバスにも天然素材が使われています。ダッシュボードでは、サイザル麻の繊維が使われていますし、タイヤには天然ゴムが使われています。また、インナーキャビンのライニングにも天然素材が使われています。防音、防熱素材にも綿花繊維が使われています。シートのバックやヘッドレストの部分には、ココナツや生ゴムが使われています。ホイールカバー、燃料チューブにはひまし油が使われています。ブレーキやクラッチにも天然素材が使われていますし、耐温性がよいということで、ひまし油も使われています。
 ブラジルで始まったこの動きが、ヨーロッパにも移行してきています。ドイツで生産されているメルセデス・ベンツの乗用車、Aクラスに天然繊維が使われています。

 もう一つ非常に重要なプログラムがあります。サトウキビからつくったアルコールの一種のエタノールという液体燃料をつくるプロジェクトです。
サトウキビのプログラムは、アルコール・プログラムとして、1975年に始まりましたが、これは、第一次オイルショックに対応するプログラムでした。1984年には、アルコール自動車が生産ラインの94%を占めるに至りました。しかし、石油価格が下落してきたために、アルコール自動車は減少してきました。

 しかし、1991年ぐらいから、連邦法が改正されて、ガソリンに22%はアルコールが入っていなければならないという規定が設けられました。その結果、1980年代から今まで、アルコール消費量が非常に増えてきました。もちろんこれは自動車の燃料としての使用です。もともとは100%純粋アルコールでしたが、今では20%ぐらいガソリンとの混合です。このプログラムは、さまざまな経済的メリットをもたらしました。

 まず、サンパウロ近辺に限っても、一年分のサトウキビの収穫によって50億ドル分の収入が得られました。1万1000人の農民が、この分野で働いています。ブラジルの農耕地の13%が、サトウキビの栽培に使われています。1984年から今まで、ガソリンの輸入が減ったとうことで、270億ドル分の資金が国内に保留されました。ですから、国にとっても非常に有効なプログラムであったということができます。

 もちろん経済以外に、社会的メリットもありました。アグリビジネスの改善、そして社会生活の状態も向上してきました。サンパウロ州に、40万人のサトウキビ労働者がいます。そしてブラジルの農村地域の40%は、このサトウキビ関連の労働者で占めています。
 そして環境に対するメリットもあります。車の排出ガスがサトウキビによって、50%カットされます。毎年、3900万トンの二酸化炭素をサトウキビが吸収していることになります。車が二酸化炭素を排出し、それをサトウキビが成長する際に吸収します。

このようにかなりの進展が見られたため、ブラジルはナショナル・レファレンス・センター・オン・バイオマスという機関を設立しました。それは、科学技術省、サンパウロ市エネルギー局、サンパウロ大学、NGOの協力でつくられたものです。このセンターは1998年、米国の環境保護局(EPA)から気候保全賞を受けました。

 次に、燃料電池プロジェクトの話をしたいと思います。これは、燃料電池用のメタノールから水素をつくるというプロジェクトです。燃料電池の技術は、天然資源をうまく活用した技術です。

 燃料電池の原理ですが、一方で水素があって、もう一方に酸素があります。水素と酸素、この二つを一緒にしますと、爆発してエネルギーが出てきます。その爆発をコントロールするのが、真ん中に入っている触媒です。水素が入ってきて、触媒が水素を電子と陽子に分けます。PMというものがあって、この外側で電気エネルギーが発生します。これを利用するのが、燃料電池です。

 陽子は外側に行って、これと酸素が結合して水になります。ですから、この水が水蒸気になって、燃料電池から排出されるのは、水蒸気だけであるということで、非常にクリーンなエネルギーです。 燃料電池の構造ですが、一つ一つのセルの間に、陽子交換膜があります。ここに二極エレメントというのがあって、冷却の仕組みがあります。一つのセルが1ボルトの電圧です。ボルテージを上げたい場合は、たくさんこのセルを重ねていくということになります。最高で200ボルト、300ボルトまで達成することができます。

 そしてこのセルをまた一つにまとめて、電気エネルギーをつくる仕組みにします。電気エネルギーを出すためには、水素を使わなければなりません。水素を直接タンクに入れて蓄積するということも考えられますが、水素を蓄積するためには液化するか、圧縮するかをしなければいけないということで、非常に制約がかかってしまいます。200キロ、300キロぐらいしか走れません。ですから、水素だけを使った燃料電池というものには、制約があります。

 そこでメタノール、あるいはエタノールといった液体燃料を使ってはどうかということを考えてみました。新たに、燃料プロセッサーというユニットを間に入れるわけです。燃料から水素をつくるというやり方です。炭素が入っていって、このプロセッサーを使うと、二酸化炭素が排出されます。ですから、最初の二つの燃料セルを今、提案しているんですが、三つ目は、まだ研究中です。

 1991年から燃料電池の自動車が走っております。1994年のものは、48w/kgというパワーでした。走行距離は130km。今年から、NECAR4(ニューエレクトロニックカー)という自動車が登場し、パワーは200w/kg、走行距離は450kmとなっています。
 ここが非常に重要なポイントなんですが、燃料電池自動車は効率が36.7%と非常によく、これは内燃エンジン、ディーゼルエンジンの24%と比べて、よくなっています。将来の可能性としては、燃料電池自動車の効率は40-45%、ディーゼルエンジン自動車は26%と予測されています。

 燃料電池で走るバスも開発していて、97年のものでは、バスの上部に圧縮水素のタンクがついています。99年には、ゼロエミッションバスも開発されました。
 98年3月からシカゴで燃料電池のバスが走っています。250kwのバスです。バンクーバーで運行しているバスもあります。こちらは9万キロ以上の走行距離をこなしています。ゼロエミッションで、かつ乗り心地もよく、乗客も運転手も非常に気に入っています。

 次に、バスおよび乗用車の水素プログラムについてお話します。これは、乗用車としては最高だと言われています。走行距離も700から800キロというように長い距離の走行が可能です。ほとんど公害のない自動車で、二酸化炭素の排出も30%カットできます。煤(すす)も出ません。

 石油ではなく、再生可能なエネルギー源を使うことができます。メタノールに関しては、インフラを整備する必要があるのですが、水素の燃料電池よりも、より簡単なものになります。量産向けのコンセプト・カーでは、燃料電池とプロセッサーはシートの下に装着されます。フロアの下の方に搭載されます。
 燃料電池の開発をするだけでなく、燃料電池自動車の市場も準備しなければなりません。ということで、自動車メーカーや燃料会社、政府とともにマーケットの開発を行っています。燃料電池自動車がうまく導入できるように、さまざまなことを行っています。今は、米国、ヨーロッパ、日本、ブラジルの四つの地域でこの技術を推進しています。

 今年の4月に、米国でカリフォルニア燃料電池パートナーシップを始めました。現在、カリフォルニアのパートナーシップの第一段階、企画段階にあります。プログラムの開発段階です。次の段階は来年始まりますが、試作品をつくります。そしてそれを使って、試運転をします。燃料は水素で、15台に限って試験を行います。第三段階が2002〜03年で、さらに試作品の数を増やして、OEMのコントロールの下に試験運行を行います。こちらは、水素、メタノールそれ以外の燃料を使うことになると思います。それ以降、2004年以降は、商用化を目指しています。

 ブラジルでは、国連開発計画と共同してプログラムを進めています。世界銀行の地球環境基金(GEF)とも協力しています。これはバスを使ったプログラムで、サンパウロEMTUとサンパウロの金融機関の支援を得ています。
 まずは5カ年計画で、8台から10台のバスを導入しようと考えています。サンパウロ市内のバス路線で、通常の交通機関として使う予定です。バスの運行には、再生可能な資源ということで、水力発電から発生する電力で製造した水素を使います。
 これは非常に重要な点なんですが、サンパウロのような大都市においては、ゼロエミッションというのは非常に重要です。米国、メキシコの大都市が似たようなプログラムを実施しようと準備を進めています。

 ドイツでは、メタノールに焦点を当てて開発しています。メタノールの生産はもう始まっていて、メタノールを廃棄物、例えば廃プラスチックからつくろうと考えています。このゴミから、年間10万トンのクリーンなメタノールが生産されています。10万トンというと、10万台の自動車の燃料として使えます。ドイツの自動車メーカーなどで使われます。

 新しい技術を、あるいは新しいコンセプトを紹介したい場合は、政府やさまざまな業界の人など、色々な人を関与させる必要があります。
しかしその前に、明確なビジョン、明確な考え方を持っていなければなりません。バイオマスを使おうという明確なビジョン、あるいは太陽エネルギーを使う、風力発電を使う、クリーンエネルギーを使うといったようなコンセプトが非常に重要になってきています。ですから、そのコンセプトが重要になってきたために、サポートも得やすくなっています。このコンセプトを産業化に使うというのは、ポエマ計画のプロジェクトの経験から学んだことです。

 バイオマスを使うその次の段階というのが、これまで紹介した燃料電池の導入ということになります。生物系の燃料を使うというのが重要なんですが、顧客にとっても重要な要素を持っていなければなりません。例えば排気ガス、排出が少ない等々ということです。
 鉱物オイルから独立しているということ、あるいは効率がよいということ、乗り心地がよいということ、新しいコンセプトで小型のエネルギー源ですむといったことも挙げられると思います。信頼性が高いということも重要な側面です。また、保守のしやすさ、騒音が低い、エンジンのパフォーマンスがよいということ、お客様にとっても重要な側面についても考えなければなりません。

 燃料電池は、生物燃料であるということ、バイオマスを使ったものであるということが重要であるだけではなく、お客様にとっても非常にプラスの面が多いということも重要です。ビジネスの面も重要になります。

 ブラジルで学んだことの一つは、この国全体がバイオマスを使おうということに関わっていたということです。バイオマスを生産して、それを使って、経済的にも成り立つようなかたちにしました。そして、それにもとづいて、さらに新しい技術が開発されている最中です。これらの活動の中でも、非常に強いビジネスのチャンスが出てきたということで、21世紀に向けて非常に色々なことを学びました。

<バイオマス産業社会ネットワーク設立シンポジウム(1999年11月開催)講演より再構成>