日本の中山間地とバイオマスの利用


熊崎 實
 実は、日本の中にも南北問題があります。都市が発展し、工業が発展する反面で、農村がおきざりになって、そして今、日本の森林というのは本当にひどい状況になっている。それはみんな、共通している。
 1960年代から今までに、日本の木材生産というのは3分の1になった。そして今、私たちが家を建てる場合に、木質の材料を使うと思いますが、その木質の材料で中山間地に還元されている部分というのが、どんどん圧縮されている。だから山主たちが受け取る立木代の価格、それは80年代初めに比べたら、半分になっていると思います。
今のままいったら、日本の森林というのは、非常に安い原料の供給基地になってしまう。全部、都会、工業部門に吸い取られてしまう構造になってしまったわけです。だからそうする、やはり農村は農村で、もっと自立することを考えなければならない。
そういうことで、どんどん価格が押し下げられるので、木を切って出しても、全然コストが合わない、そういうことになりますと、食べていけないので、農村の若い人たちは外に出ていく。農村の若い人が外に出て行ったら、もう山の管理はできなくなるわけです。
 日本では40%ぐらいの森林を、人工林にしました。ところがそのせっかく人工林にしたのに、手入れができなくて、山が過密になって、活力を失うという非常にこの深刻な状況になっているわけです。

 そこで、今われわれが木質バイオマス利用研究会というのが活動しています。日本では、ずいぶんたくさんの木材が捨てられている。今、森林で木を伐採して、太い木一本切る。幹に近い一番太いところは、売れる。ところがあとは全然売れないから、みんな放置している。伐採した木材の木の一部が使われるという、そういう状況にある。

 それから、間伐をやるわけですけれども、間伐材が売れない。補助金もらって間伐するんだけれども、それも全部、山に捨ててくる。それからまた、下に降りてきますと、今、建築廃材として捨てられている木質のバイオマスというのは、2000万立方メートルぐらいある。2000万立方メートルというのは、日本の国内で生産する木材の量と同じぐらいの量です。それが、捨てられている。
それから製材工場などの木材加工場から出てくる木くずなどのバイオマスが、1500万立方ぐらいあります。それぐらい膨大な資源が、全部捨てられている。
だから私たちが考えてるのは、その資源をもっと有効に活用して、やはり農山村が自立できるような筋道を見つけることなのです。
 
 なぜバイオマス・エネルギーかということですが、私たちの考えでは、発電にくずを使う。捨てられる廃棄物を使う。捨てられる廃棄物で電気をつくり、その電気を使って、低質のものを加工するということです。付加価値をつけるわけです。ただ単に丸太やチップで出すのではなくて、中山間地で付加価値をつけて、それを出荷していくようなやり方をとらないといけないのではないかと考えているわけです。

 1999年8月12日、米国のクリントン大統領が大統領令を出して、バイオマスを使った製品とバイオマスエネルギーの生産量を2010年までに3倍にすると言いました。これは、大変な量です。それによって農山村に、毎年毎年、200億ドルの所得をつくる、それからもう一つ、温室効果ガスを毎年1億トン、それによって減らしていくと。それを大統領令で出して、それに向かって動き始めたわけなんです。

こうしたバイオマスの利用というのは、ヨーロッパはもう少し前から動き出しています。一方、ブラジルというのは、ある意味では、バイオマス利用大国です。化石エネルギーにあまり頼らないでそれをやっている大国で、実は、アメリカがその方向に向けて動き始めたということです。
クリントン大統領が記者会見の中で言っているのは、21世紀はバイオマスの世紀である、20世紀は石油の世紀だったと。それでは、今の石油の時代がなぜ来たかと言えば、石油の分子が持っているエネルギーを全部うまく取り出すことを考えついた、だから今は石油の時代である。

 今度、21世紀に何をやるか。それは、今まで捨てられていたバイオマス、木を切って捨てていたり、農産物のくずとして捨てていたバイオマスのなかに含まれているエネルギー、その分子が持っているエネルギーを全部活用するようにする、それが21世紀の課題だと言っているんですね。

 そういったバイオマスが持っているエネルギーというのを、残らず取り出す、しゃぶりつくす、その技術が今、非常に速い勢いで発展しているわけです。発電にしても、今までなら木を燃やして、蒸気をつくって、それで蒸気タービンを回して、電気を起こしていた。
 ところが今のだんだん進んだ技術になってきますと、木材をガス化して、それで今度、ガスタービンで発電するわけです。比較的小さな規模で効率が上がる。もっと小さくなりますと、先ほどあった、燃料電池です。燃料電池を組み込んだ発電なら、もっと小さなスケールで効率が上がる。これが結局未来の、バイオマス発電の理想になっていくわけです。

 今ちょうど、その技術が開発されつつあるものですから、われわれの研究会としましては、そういった技術進歩を見込みながら、なんとか日本にそれを定着させるということをやっているわけなんです。
ところがどうしたことか、ヨーロッパや米国と比べますと、日本はこれだけたくさん木質のバイオマスがありながら、ほとんどそれを活用するという視点がなかった。石油や石炭は全部輸入して、木材の8割も輸入している。それで自分のところの資源は何も使わないで取っておく。そのために日本の農村というのは活力を失い、経済的な活力を失う、そういう構造になってしまったわけです。

 米国というのは、8割はエネルギーを自給している。それだけ資源がありながら、なおかつ自分のところの資源を使ってエネルギーをまかなう。そしてできるだけ石油に払うお金を節約して、アラブの石油にお金を払うんだったら、自分の国の農山村にそれを還元しよう、それで経済を活性化していこう、そうなっているわけです。

 日本には、バイオマスエネルギーの利用に、非常に大きな制約があった。今までバイオマスで電気をつくる、そういう場合に電力会社が買ってくれなかった。電力会社が日本で電気を買ってくれなかったら、いくらバイオマスで電気をつくってもしょうがなかったけれども、それがようやく、打開の糸口ができ始めたわけです。
1999年11月24日に、衆議院と参議院の国会議員の皆さんが超党派で自然エネルギー促進法をつくろうという、議員連盟ができて、それの結束式が24日にあった。それは何をするかというと、新しい法律をつくって、これから自然エネルギーでできた電気を、電力会社が買い取るように、そういうシステムをつくろうということです。

 そういうことで、20世紀の最後に、やっと日本でもバイオマスの方向に向かって動き始めた、これは21世紀の新しい流れになっていくのではないか、と思っているところです。

<バイオマス産業社会ネットワーク設立シンポジウム(1999年11月開催)講演より再構成>