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2020年の動向

1 国際的な動向

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2021年1月、欧州委員会の共同研究センターは、森林由来の木質バイオマスエネルギーの気候変動への効果を分析する報告書を発表した【*17】。ドイツ、オーストリアは、石油ボイラーからのフェードアウトを決定した。オランダは2020年5月、バイオマスは価値の低い利用(発電、熱利用)からは撤退していくべき、エネルギー利用は他の持続的な手段が存在しない場合の一時的な利用とする社会経済委員会報告書を発表した。フランスは、ADEMを通じて熱基金によりバイオマスなど再エネ熱の産業用および地域熱供給を支援している【*18】。産業部門での国際的な熱利用プロジェクトとしては、IEA-bioenergyやBiofit【*19】によるものなどもある。

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コラム⑥ 2050年 カーボンニュートラルに向けた世界の動向

パリ協定のもと気候危機に対応するためには温室効果ガス特にCO₂(二酸化炭素)の排出量を2050 年までに実質ゼロ(Net Zero)とすることが求められており、多くの国や自治体、企業や団体が2050 年までに CO₂ 排出量を実質ゼロにすることを宣言している。2019年9月の国連気候変動サミットで立ち上げられた「気候野心同盟」(Climate Ambition Alliance)で宣言している国は、昨年10月に宣言をした日本を含めて121カ国となっている【*1】。

この2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すためには、電力分野だけではなく熱分野や交通分野を含む最終エネルギー消費全体に対する施策が重要になってくる。自然エネルギーは、電力分野において世界中で目覚ましい発展を遂げて来たが、熱分野や交通分野での自然エネルギーの普及は一部の国や地域に留まっており、世界的にもこれらの分野の省エネルギーや自然エネルギー普及を進めることが課題となっている。さらに電力分野と熱分野や交通分野を跨るセクターカップリングの技術やスマートエネルギーシステムにも注目が集まっている。

バイオマスは、現状でも自然エネルギーの中で熱分野と交通分野で重要な役割を果たしている。WBA(世界バイオエネルギー協会)のバイオエネルギー統計データ集によると、2018年に世界全体で供給された自然エネルギーのうち約7割がバイオマスだった【*2】。電力分野ではバイオマスは9%程度の割合だが、調理なども含む熱の直接利用では自然エネルギーの約96%に達する。交通分野でも自然エネルギーの9割以上がバイオマス(バイオ燃料)で、特にアメリカ大陸で普及しており、世界全体のバイオ燃料の消費量は電気自動車のエネルギー消費量の2倍以上になる。

2020年12月に発表されたIRENA(国際自然エネルギー機関)、IEA(国際エネルギー機関)およびREN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)の共同レポート”Renewable Energy Policies in a Time of Transition: Heating and Cooling”では、最終エネルギー需要の約半分を占めると言われる熱分野(特に冷暖房)でのエネルギー転換のための自然エネルギー政策の在り方をまとめて提言している【*3】。

2019年の世界の熱分野のエネルギー消費量に占める化石燃料は77%以上あり、約12%が伝統的なバイオマス、約10%が持続可能なバイオマスなどの自然エネルギーとなっている(図1)。

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図1:熱分野のエネルギー源の内訳(2019年)

図1:熱分野のエネルギー源の内訳(2019年)

出所:IEA,IRENA,REN21のレポート【*3】に加筆

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熱分野(特に冷暖房)の脱炭素化に対するバリア(課題)は、政策や支援により解決できる可能性がある。最初のバリアとして一般的に運転費用は自然エネルギーの方が低いにも関わらず、化石燃料と比べて自然エネルギー導入の初期費用が高いことがある。そのための支援策として税額控除やローン、補助金などの金融的な支援のほか、導入目標を設定した上での導入の義務化などがある。さらにバリアとしてユーザにとって化石燃料の価格が自然エネルギーと比べて安くなっていることがあり、化石燃料への補助金がいまだに多くの国で存在する。そのため化石燃料の環境への影響などの外部性を如何に経済的に評価するかが問われている。その他、ユーザが自然エネルギーの優位性に気が付きづらいことや、信頼できるサプライチェーンの構築や必要なインフラの構築が必要となっている。

これらのバリアを解決して自然エネルギーへの転換を進めるために、以下の5つの方策が示されている。(1)自然エネルギーによる電化、(2) 自然エネルギーによるガス供給、(3)持続可能なバイオマス利用、(4)太陽熱の利用、(5)地熱の利用、などである。さらに、熱分野インフラの構築として自然エネルギーを大量に導入できる地域熱供給の重要性が指摘されている。現状の地域熱供給では、化石燃料が多く使われているが、欧州(特に北欧やバルト三国など)では、地域熱供給への自然エネルギーの導入が進んでいる。

さらに、2050年に向けて脱炭素化が難しいと言われている産業分野および交通分野について脱炭素化の可能性について検討したレポートがIRENAから発表されている【*4】。これまで脱炭素化が難しいと言われている4つの産業分野(製鉄、石油化学、セメント、アルミ製造)は、世界の全CO₂排出量の20%以上を占める。そこで、省エネルギー、再エネ電気の直接利用、再エネ熱やバイオマスの直接利用、自然エネルギー電気からの合成燃料、CCSなどのCO₂除去技術などの5つの手法で、2050年に向けて脱炭素化を達成できる可能性を示している(図2)。

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図2: 産業分野および交通分野においてゼロエミッションを達成する5つの方法

図2: 産業分野および交通分野においてゼロエミッションを達成する5つの方法【*4】

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その中で、自然エネルギーの直接利用とバイオマス利用により16%のCO₂削減が可能としており、特にセメント製造やアルミ製造においては約3割のCO₂を削減できるとしている。製造時の燃料に廃棄物やバイオマスからの熱を利用したり、バイオマスとCCS(カーボン除去)を組み合わせたBECCSによるオフセットなどが想定されている。このIRENAによるシナリオで2050年において全世界の約15%のCO₂を排出すると想定される3つの交通分野(貨物、航空、海運)についても、産業分野と同様に5つの手法での脱炭素化の可能性が示されている。その中で、自然エネルギーの直接利用とバイオマス利用により17%のCO₂削減が可能としており、特に航空ではバイオ燃料などのバイオマス利用により23%の削減ができるとしている。

<認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所 主席研究員 松原 弘直>

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