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バイオマス発電の終わりの始まり?

2022年2月に始まったウクライナ侵攻は今も続き、収束が見えない。円安の影響もあり、エネルギー価格が高騰し、光熱費が跳ね上がった。今こそ、再生可能エネルギーを飛躍的に発展させることが、気候変動対策としても国民生活にとっても必要だと考えられるが、日本の現状は迷走している。150兆円とも言われるGXに沸いているが、その中にはアンモニアやCCSなど首を傾げる政策も入っている。バイオマス産業社会ネットワーク第212回研究会で、産業総合研究所主任研究員の歌川学氏は、「脱炭素化は既存技術およびその改良で9割が可能」であると具体的なデータで示した【*】。既存技術の方がコストパフォーマンスがよく、リスクが少ないにもかかわらず、一見華やかな新技術の後ろに隠れているように見える。

もちろん、バイオマス熱利用を含む既存技術が普及していないのは、単に知られていない、導入の方法がわからない、使用期間全体では安価だが初期投資が高い等の理由がある。地域エネルギーサービス会社の育成などにより、それらを地道に一つずつ埋めていく作業が必要であろう。

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2022年3月、広島県庄原市で木質バイオマス事業が補助金不正受給によって頓挫したのは、前市長の注意義務違反として、市の負担分を請求することを広島地裁は認めた(参照)。新しいものにチャレンジする際に失敗はつきものだが、着手前から無理があるとわかっている事業が、これまでも多数行われてきた。税金が投入されるのであれば、不適切な資金の使い方に対する責任は追及されるべきだと考えられる。

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さて、2022年のトピックスの一つは、バイオマスの燃焼によるCO₂排出をどう見るかについての議論であろう。欧州議会において再生可能エネルギー指令の改正案(REDIII)が可決された。ヨーロッパでは再生可能エネルギー目標達成に向け、導入しやすいバイオマスが増加し、森林への圧力を高めていた。欧州委員会のシンクタンク、JRCのレポートは1.2億トンの木材が出所不明、と指摘しており、違法伐採木材などの事例が環境団体から告発されていた。

森林を伐採してバイオマスエネルギー利用することの是非は、森林のタイプや利用方法によっても大きく異なると考えられるが、2050年カーボンゼロにおいては、森林蓄積の増加が必須であることを考えれば、充分な検証が必要である。少なくとも、現状のカナダのように老齢林を伐採して木質ペレットとし、発電燃料として使うことには、大きな疑問がある(コラム③参照)。

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一方、カスケード利用された木質系廃棄物等が焼却処分されるのなら、化石燃料代替としてエネルギー利用を行う合理性はある。ただ、そうしたバイオマス量はそれほど多くはなく、過大な期待は禁物であろう。経済産業省は燃料種ごとのバイオマス発電燃料の温室効果ガス規定値を提示したが、輸入木質ペレットによる発電は、化石燃料による発電の30%以上を排出する(トピックス1 図2)。これは国際エネルギー機関(IEA)が提唱するパリ協定の目標達成のために必要とする電力一単位あたりの排出量(SDシナリオ)の2倍以上である。つまり輸入木質バイオマス発電では、パリ協定の目標を達成できないのである。

今回、FIT燃料として認められた新規燃料も、発生した地域で使う方が輸送にかかるエネルギーとコストが節約される。持続可能なバイオマス資源には限りがあり、産業用熱やSAF(持続可能な航空燃料)等、他では代替が困難な用途にシフトすべきだと考えられる。欧州ではバイオマスの脱発電の動きが顕著になっており、日本でも検討すべきであろう(トピックス2コラム⑤参照)。

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この一年、バイオマスボイラーに関わる事故やサイロの火災が相次いだ(国内の動向 3)。バイオマスは化石燃料のように普及しておらず、扱いに慣れていない事業者もあるが、安全性の確保は欠かせない。可燃性の危険物であり、大量に輸入され利用されるにあたって、マニュアルの整備や規制なども必要ではないかと考えられる。

等々、課題は多いが、2023年も志を同じくする方々とともに、バイオマスの経済的、環境的、社会的に適切な利用促進に向けて、活動してまいりたい。

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<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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