1. 欧州をロールモデルとした森林バイオマス利用
〜日本にも真の成功事例を〜

(1)ロールモデルとしてのヨーロッパ

森林バイオマスの本格的な利用は、健全な林業活動の上に成り立つということを、多くの識者が指摘してきた【*1】。林業が成立すれば、生産する木材を利用する木材産業が集積し、その端材をバイオマスエネルギーとして利用できる。更に、林業の基本的なインフラである路網を活用し、小径木や枝条などがチップとして利用できるようになる。森林バイオマスのエネルギー利用が盛んなヨーロッパを見ても、このような順番で、木質バイオマスが利用されている【*2】。こうしたことから、筆者は「国産材のバイオマス利用へのロードマップ」として、バイオマス利用のためには、まず林業再生が必要であることを主張してきた。

図:国産材のバイオマス利用へのロードマップ

図:国産材のバイオマス利用へのロードマップ

日本同様先進国であるヨーロッパは、小規模分散型の個人所有林が多くを占め、労働費用も高く、木材価格は日本と同程度である。また、オーストリアや南ドイツなど急峻な地形も多い。それでも路網の整備や、機械化、フォレスターと呼ばれるマネジメント人材の育成等により、高い労働生産性を実現させ、なおかつ積極的に森林認証を取得するなど環境面にも配慮した形で、林業を持続的に成立させている【*3】。その結果、バイオマス利用も着実に進み、追加的な木材の利用源(収入源)として、林業採算性の向上に寄与することが期待されている。

一方、日本ではバブル期までの異様に高い木材価格と、その後のバブル崩壊等に伴う木材価格低迷後の過剰な公共投資によりイノベーション圧力が働かず、ヨーロッパで実現しているような近代的な林業へと脱皮できていない。

(2)日本林業再生の方向性

それでは、ヨーロッパをロールモデルとして考え、また日本の事情も加味して考えた時に、日本林業再生の方向性はどのようなものであろうか。

まずは、小規模な所有構造の森林をとりまとめて、流域単位で集約化を行う必要がある。次に、とりまとめた森林に一体的に路網を整備し、機械を駆使して、間伐により、木材を生産する。皆伐は再造林を行えば、収支が合わなくなるのでなるべく避け、長伐期多間伐施業といって100年程度まで抜き切りを繰り返す。これにより、皆伐による裸地化を避け、公益的機能を高度に発揮するこができる。このような取組の成功事例として、京都府の日吉町森林組合がある。

日吉町森林組合では、1996年から「森林プラン」という見積りを作成し、透明性の高い収支を示すことで、森林所有者の信頼を勝ち得、間伐遅れの森林の整備を終え、今は積極的な木材生産を行いながら、長伐期林施業に移行しつつある【*4】。林野庁でもその有効性を認め、日吉町森林組合のノウハウ(「提案型集約化施業」と呼ばれている)を水平展開すべく、2007年度より、施業プランナー育成研修【*5】を開始、人材育成に努めている。またこれと並行して、現場作業者の育成、路網整備の推進、機械の性能向上などにも取り組む必要がある。

なお、ヨーロッパではフォレスター(森林官)と呼ばれる森林管理の専門家(現場作業者とは別のマネジメント階層である)は、大学や専門学校等で公的な専門教育を受けており、将来的には日本も一時的な研修ではなく、しっかりとした人材育成システムが必要であろう。

(3)目標をリセットせよ

このように、日本林業の再生に向けたプログラムが、スタートしたところである。筆者も施業プランナー育成研修等に関わっているが、ヨーロッパ等の事例を分析しながら、山積する身近な課題を一つ一つ解決しながら取組みを進めているところである。

他方、日本の森林バイオマスのエネルギー利用のためのトライアルが始まって10年近くが経とうとしている。各地で様々な取組が行われているが、筆者が見るところ、本当の成功事例と呼べるような事例はまだ現れていないのではないだろうか。と言うよりも、これまでは、何を持って成功とするのかの定義があいまいだった。そろそろ私達は、森林バイオマス利用のエネルギー成功したときの姿、つまり目標を再び描き直す必要があるのではないだろうか。その上で、これまでの取組みを分析し、ヨーロッパの事例なども参考にしながら、戦略的に新たな一歩を踏み出す必要がある。

以下に、筆者が考える「成功事例」の要件を整理してみた。2020年程度の中期的なCO2削減に寄与し、21世紀における持続可能な中山間地域づくりに繋がるためのポイントを満たしていることを考えたものである。

そして、このような成功モデルを作るためには、供給側(林業)、需要側、そして地域行政等の関係者等全てのプレーヤーが高い志を持って取り組む必要がある。また、ある程度の規模を持った製材工場の原材料需要を満たすためには、それに相当する面積の森林資源と、複数の林業事業体が必要になると思われる。

いずれにせよ、やるべきことの道筋は見えているというのが筆者の考えである。後はそれを具現化して、真の成功事例をできるだけ早くつくりたい。

<相川 高信(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 研究員)>