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2011年の動向
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2011年の動向

1. 国際的動向

(1)世界のバイオマス利用の動向

バイオマスは、世界の自然エネルギー利用量の半分以上を占めている。薪炭材の調理・暖房用などいわゆる伝統的バイオマス利用は、世界のエネルギー需要の1割をまかなっているが、これに加えて、発電・熱電併給プラント(CHP)、ガス、液体燃料など近代的なバイオマス利用も拡大している。自然エネルギー世界白書2011によると、2010年末時点で稼働するバイオマス発電容量は62GWだった。うちEUが20GW、米国が10GW、途上国が27GWとなっている。

EUでは2009年に1,000万tのバイオマスペレットが生産され、2010年には輸入を含めて1,100万t以上が消費された。米国では、推計1,200万の薪ストーブ・ペレットストーブ・暖炉が導入されている。中国では推計5,000万の家庭がバイオメタンガスを利用している。ヨーロッパではバイオガスが天然ガス供給網に導入され、熱電併給プラントで利用されるほか、オーストリア、ドイツ、スウェーデンなどではバスや商用車などにも使われている。

2010年の世界の燃料用エタノール生産量は前年比17%増の8,600万klで、うち米国とブラジルで88%を占めている。バイオディーゼルは同7.5%増の約1,900万klでドイツ、ブラジル、アルゼンチンが上位生産国である【*19】。

(2)GBEPのバイオ燃料持続可能性指標

2011年5月、世界バイオエネルギー・パートナーシップ(GBEP)が、バイオエネルギーの持続可能性指標を発表した。GBEPは、G8サミットでの議論を経て設立された国際的な組織で、事務局はローマの国連食糧農業機関(FAO)内にある。この持続可能指標は、環境分野だけでなく、社会分野および経済・エネルギー保障分野にも重点が置かれていることが注目される。

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表:バイオエネルギーの生産に伴う諸問題解決に向けたGBEP持続可能性指標【*20】

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コラム3 バイオ燃料をめぐる国際動向:2011年

2011年の世界のバイオ燃料産業は、茨の道に踏み込み、出口を求めてむなしくもがくばかりだ。

米国

バイオマス白書2011で、米国の燃料エタノールの生産・消費はガソリン消費量の10%という「ブレンド・ウォール」に突き当たったと書いた【*1】。この状況は2011年も変わらず、今後当分、変わりそうにない。この壁を超えるためには、エンジンを損傷する恐れがあるなどという理由で使用が許されなかったエタノールブレンド率10%以上のガソリン燃料の利用が進まねばならない。環境保護局(EPA)は2010年10月、一部新モデル車について、E15(エタノールブレンド率15%のガソリン燃料)がエンジンを損傷する恐れはないと発表した。「再生可能燃料協会(RFA)」は、今年夏には販売が許可されると楽観的だ。しかし、エタノール生産最大手のカーギル社などは、E15 が広く利用されるまでには長い時間がかかるとみる。そのためには、安全性などにかかわる連邦および地方レベルの多くの規制をクリアせねばならない。規制がクリアされても、エタノール燃料を供給する給油施設などのインフラ整備は決定的に遅れているからだ。

エタノール燃料の普及を阻むのは規制やインフラだけではない。むしろ、経済性の問題の方が大きい。エタノールはガソリンに比べてエネルギー価が低いから、価格がガソリン価格を大きく下回らないかぎり、消費者はエタノール燃料を使わない。そのために、2011年には、国内需要が停滞どころか減少にさえ向かった(図1)。

米国の燃料エタノールの需給

図1:米国の燃料エタノールの需給
出所:RFA

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生産に見合った消費を呼び起こす(生産過剰を回避する)ためには、エタノール価格がガソリン価格をガロン当たり80〜90セント下回る必要があるという。実際、2011年12月以降、原料トウモロコシ価格が歴史的高レベルにはりつき、ガソリン価格が急騰しても、エタノール価格は低迷したままだ(図2)。これでは、エタノール工場の採算が取れない。それでも生産レベルが維持されているのは、ガロン当たり45セントの連邦補助金があることと、サトウキビ不作で国内エタノール需要を満たせなくなったブラジルへの輸出の道が開けたことによる。しかし、補助金は2012年から廃止された。米国の巨額な財政赤字の削減に不可欠とされたからである。ブラジルのエタノール生産も、すぐには無理としても、いずれ回復に向かうだろう。カーギルと並ぶエタノール生産最大手の一つであるADM社は、今年、不採算工場一つを閉鎖すると発表した。茨の道からの出口は見つからない。

トウモロコシ・エタノール・ガソリン先物相場

図2:トウモロコシ・エタノール・ガソリン先物相場
出所:シカゴ商品取引所

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EU

EU諸国の主要バイオ燃料はバイオディーゼルである。2002年以来増え続けてきたその生産が、2012年、はじめて減少に転じた(図3)。業界団体(EBB)は、その原因を、アルゼンチンやインドネシアからの安価な製品の輸入のためと主張する。それも確かに一因ではある。

EUのバイオディーゼル生産量(1,000トン)

図3:EUのバイオディーゼル生産量(1,000トン)
出所:European Biodiesel Board

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しかし、もっと基本的な問題は、米国と同様、割高なために製品需要が伸びないなか、原料価格が高値に張りついていることにある。主要原料であるナタネの価格は、史上最高レベルが続いている。大豆やパームオイルの価格も同様だ。中国等新興国や途上国からの食用油や家畜飼料としての需要が増大する一方、天候異変などで供給も不安定になっているからだ。

2012年1月、フランス会計検査院がバイオ燃料は消費者に多大な負担を課す一方、環境便益も不透明として、フランス政府の手厚いバイオディーゼル優遇税制措置の縮小を勧告した。フランスのバイオ燃料は軽油やガソリンに混ぜて売られているが、バイオ燃料のエネルギー価は低く、同じ距離を走るためにより多くの燃料を消費するため、消費者に余計な負担を課している。その上、減税措置の政府費用の大部分は7%混合という目標を守らない流通業者から取り上げる汚染税で賄われており、業者はこの税負担を消費者に転嫁している。それでいて、道路輸送のための化石燃料は2005ー2010年にせいぜい5%節約されただけだった。温室効果ガス削減などの環境便益も確認は極度に難しいという。これでは、経済性はともかく、エネルギー安全保障や環境のためにバイオ燃料を使おうという消費者の意欲も失せてしまう。

こうして、EUでも、バイオ燃料利用の増大は壁にぶつかっている。その上、欧州委員会(EU)が2011年末までに行うと義務づけられている間接的土地利用変化の影響の扱いに関する立法提案も、いまだになされていない。欧州委員会のために用意された研究は、EUのナタネ・バイオディーゼル、アジアのパームオイル・バイオディーゼル、南米の大豆バイオディーゼル、いずれも、間接的土地利用変化を考慮に入れると化石燃料ディーゼル以上に温室効果ガスを排出すると結論している。このように将来の規制がどうなるか分からない状況では、産業もさらなる投資に踏み切れない。EUでも、茨の道からの出口が見つからない。

ブラジル【*2】

世界第二のバイオエタノール生産国・ブラジルのエタノール生産は、悪天候と低収量サトウキビ畑への投資(植え替え)の低迷のために、20%近く減少したと言われる。エタノールの不足と高値のために消費者はガソリンに走り、ガソリン輸入が激増した。米国等へのエタノール輸出もストップ、逆に輸入する破目に陥った。政府は2012年2月、今後4年間でサトウキビ畑640万ヘクタールの更新(再植)、520万ヘクタールの新植などでエタノール生産を大きく引き上げる計画を発表した。

ただ、これに要する多大な投資をどう実現するのか。ブラジルはいままで、こうした投資の多くを多国籍アグリビジネスから引き出してきた。しかし、2010年、国の主権が脅かされると外国企業による土地取得に関する規制を強化した。これが外国企業の投資意欲を著しく削いでいる。ここでも、前途に難題が待ち受ける。

ランドラッシュ

このようなバイオ燃料の世界的退潮は、バイオ燃料原料作物用地を求めての欧米企業の“ランドラッシュ”の勢いを削ぐ可能性がある。国際市民グループ“国際土地連合”(ILC)が2011年12月に発表した研究報告によると、7,100万ヘクタールに及ぶ世界の大規模土地取得の6割近くがバイオ燃料部門によるものだ。アフリカ、アジア、南米の小農民や先住民から土地と水と食料を取り上げ、彼らの貧困を加速するランドラッシュ(ランドグラブ=土地収奪)の主役がバイオ燃料であったことを確認するものだ。

しかし、今や、こうしてつくられたバイオ燃料原料作物プランテーションの破綻が世界各地から報告されるようになった。例えば英国のオブザーバー紙の調査では、タンザニア、ガーナ、モザンビーク等アフリカ15カ国で、主としてジャトロファ栽培にかかわる少なくとも30のバイオ燃料プロジェクトの放棄が確認されるという【*3】。

とはいえ、バイオ燃料企業が放棄した土地が小農民や先住民に戻されるわけではない。彼らは土地と職を失った。ランドラッシュは消えても、バイオ燃料産業と諸国政府が犯した罪は決して消えない。

<北林 寿信(農業情報研究所【*4】主宰)>


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