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東日本大震災・原発事故と
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トピックス 東日本大震災・原発事故と今後のバイオマス利用を考える

3. 固体バイオマスの持続可能性

2012年2月、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク、FoE Japan、環境エネルギー政策研究所、ジャパン・フォー・サステナビリティ、WWF Japan、ペレットクラブの6つの環境団体などは、「日本におけるバイオマスの持続可能な利用促進のための原理・原則〜適切なFITの設計のために」について、下記のような主旨の提言を発表した【*11】。

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京都議定書においてバイオマスは「カーボンニュートラル(炭素中立)」として、燃焼しても大気中の温室効果ガス(GHG)を増やさないとされてきた。だが、信州大学のマイケル・ノートン氏(現・東北大学)によると、実際には、欧州の適切に経営されている森林においても、バイオマスのため余分な伐採をすると、排出されたCO2を吸収するには280年以上かかる(下図)。したがって、この20〜30年以内のGHG排出削減には、こうしたバイオマス利用はむしろ逆効果となる。

図:森林からのCO2吸収における炭素借金(出典:マイケル・ノートン氏資料)

図:森林からのCO2吸収における炭素借金(出典:マイケル・ノートン氏資料)

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バイオマス発電などのLCAにおいては、バイオマス生産時における土地利用転換【*12】によるGHG排出、輸送や加工の際の排出、さらに新たなバイオマス利用により既存用途を満たすために別の場所でバイオマス採取が行われることによる間接影響も、対象にする必要がある。

このようにバイオマス利用は、化石燃料以上にGHG排出が多くなる可能性があり、大気中のGHGを増加させない利用を行うための仕組みづくりが重要である。

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また英国は2011年4月に、固体バイオマスおよびバイオガスの持続可能性基準を導入した【*13】。この中では、固体バイオマスおよびバイオガス利用した発電において、化石燃料利用時と比較して全ライフサイクルアセスメントで60%以上の温暖化ガス排出を削減することなどが規定されている。EUでも、固体バイオマスに関する規制の必要性について議論し、データの蓄積も行っている(下図)。

図:固体及び気体バイオマスのライフサイクルGHG排出量の代表値及びデフォルト値

図:固体及び気体バイオマスのライフサイクルGHG排出量の代表値及びデフォルト値
(土地利用変化による炭素の排出が生じない場合)
①は木材、②は天然ガスを加工燃料とするもの
出典:バイオマスの持続可能性に関する欧州委員会報告書

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日本におけるバイオマス利用のLCA分析としてはいくつかあるが【*14】、林地残材の発電利用については、北海道立総合研究機構が行った調査がある。これによると、切り捨て間伐材によるバイオマス発電(発電のみ、発電効率10%)では、電力の発電端GHG原単位の日本平均を超えており、これでは温暖化対策効果が期待できない(下図)。発電効率を上げること、より現実的なのは熱利用も行う(熱電併給)ことで、温暖化対策効果や経済性を上げることができる。

図:北海道における切り捨て間伐材によるバイオマス発電のGHG排出量

図:北海道における切り捨て間伐材によるバイオマス発電のGHG排出量 
出典:古俣寛隆氏資料(北海道立総合研究機構 森林研究本部林産試験場)

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ドイツの経験でも、まず薪などシンプルな熱利用が広がるなかで、その発展形として電力利用が増加している。

大規模バイオマス発電は、集材や輸送にエネルギーがかかり、CO2削減効果を期待しにくい。大面積の皆伐など、森林生態系へのプレッシャーとなる可能性がある。大面積の皆伐は莫大な再造林費用がかかり、経済的にも環境的にも持続可能な森林経営が難しいため、避けるべきである【*15】。また、輸入バイオマスであれば、地域の持続可能な森林経営への恩恵がない。

一方、小規模分散型熱利用を主とするコジェネレーションであれば、輸送距離が短く、資源収集および経済的に持続可能な利用がたやすく、国内・地域経済への恩恵もある。

大量の安価なバイオマスを必要とする発電は、製材廃材、建築廃材など廃棄物系バイオマスが向いており、林地残材は熱利用を中心に利用拡大を図るべきであろう。

これまで日本のバイオマス発電は、電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置(RPS)法の対象の7割程度が清掃工場であるなど、廃棄物中心で行われてきた。FITの適切な買取り価格も、RPS制度や海外の経験の分析も踏まえつつ、中立的な立場の機関が透明性をもって、きめ細やかに事例をモニタリングし、設定していくべきであろう。

被災地においても現在、復興交付金を視野に入れて大〜中規模のバイオマス発電計画がばらばらに立てられているが、被災材(がれき)がなくなった後の運用も含め、燃料となるバイオマスの持続可能な調達に十分な配慮をしつつ、協議会などを形成しながら進めることが重要であろう。

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シンポジウム
「日本におけるバイオマスの持続可能な利用推進のために」

NPO法人バイオマス産業社会ネットワークおよび㈱三菱UFJリサーチ&コンサルティング主催により、2012年3月19日、シンポジウム「日本におけるバイオマスの持続可能な利用促進のために〜適切なFIT制度設計のための原理・原則〜」が都内で開催された。

相川高信氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)「バイオマスの持続可能な利用のための基本原則」、マイケル・ノートン氏(信州大学経営大学院)「EU及びイギリスにおけるバイオマスの持続可能性問題の最新動向」、古俣寛隆氏(北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場)「バイオマス利用のLCA分析事例と今後の研究課題」、梶山恵司氏(富士通総研経済研究所) 「バイオマスと日本林業のポテンシャル」の各講演が行われた。

パネルディスカッションでは、松原弘直氏(環境エネルギー政策研究所)と泊みゆき(バイオマス産業社会ネットワーク)が加わり、司会は相川高信氏が務めた。再生可能エネルギー電力買取制度(FIT)の実施を控えて高い関心を呼び、官庁、林業関係者、企業、大学、メディア、NPOなど200名近くが参加し、持続可能な木質バイオマス利用について、活発な議論が行われた。

本章は、このシンポジウムでの講演内容・資料および議論を、編集部の責任で再構成したものである【*】。

シンポジウム「日本におけるバイオマスの持続可能な利用推進のために」画像
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