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2014年の動向

1 国際的な動向

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2014年は、世界の再生可能エネルギー発電容量の増加が1億kW(100GW)に上るなど、自然エネルギー全体の伸長が目立った【*32】。

自然エネルギー世界白書2015(REN21)によると、2014年の世界のバイオマス一次エネルギー総需要は約16,250TWh(58.5EJ)で、うち熱利用が12,500TWh(45EJ)だった。バイオマス発電容量は2004年の36GW未満から2014年には93GWへ、同発電量は227TWhから433TWhへと大幅に増加した。木質ペレットの生産量は2013年と比べ9%増加し、2,400万tを超えた。主な生産国は欧州(62%)と北米(34%)で、ほとんどを占める。2014年のエタノール生産量は9,400万kl、バイオディーゼル生産量は2,970万klだった。世界のバイオ燃料生産設備への投資は2014年も下がり続け、2013年から8%減少し、51億米ドルだった。中国では、10万基の大規模近代的バイオガスプラントと4,300万基の住宅規模のバイオガス装置があると見られるなど、インド、米国、欧州など各国でバイオガス利用が拡大している【*33】。

バイオマスの最終消費形態では、左図のように、熱が圧倒的である。

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大陸別バイオエネルギー最終エネルギー消費(2011年)【*34】

大陸別バイオエネルギー最終エネルギー消費(2011年)【*30】
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世界のバイオマス資源による熱生産と発電量の中の資源割合(2014年)【*35】

世界のバイオマス資源による熱生産と発電量の中の資源割合(2014年)【*31】
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近年、CO2排出の多い石炭火力への風当たりが強くなり、石炭火力発電をバイオマスへ転換したり、バイオマスと混焼する例が増加している。通常の石炭混焼では技術的問題からバイオマス混焼率は数%から10%程度が多いが、その割合を高める半炭化(トレファクション)技術への注目が高まっている。ただ、ローカルな熱需要は多く存在しており、コストやエネルギーをかけての加工や長距離輸送が、経済性や世界的な温暖化対策としての効果を高めるかどうか検証する必要があろう。

オランダでは、間接的土地利用変化をもりこんだ固体バイオマスの持続可能性基準【*36】が合意された(次ページからのコラムも参照のこと)。

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また2014年には、日立造船、新日鉄住金エンジニアリング、JFEエンジニアリング、三井造船、神鋼環境ソリューションなど日本の各エンジニアリングメーカーのごみ発電分野で海外への進出・伸長が目立った【*37】。

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コラム3 加速する日本向けバイオマス輸出?

1. 日本市場に熱い視線を注ぐ世界のサプライヤー

2015年に入り、2つの国際会議に参加する機会があり、世界のバイオマス・サプライヤー達が日本市場に熱い視線を注いでいる現実を知った。3月にはアメリカ・アイダホ州で開催されたSmall Log Conferenceという会議にて、主に北米のサプライヤーと議論することができた【*1】。北米からは、欧州へのペレットの輸出が活発化しているが、これは主に南部からの輸出であり、会議が開始された北西部では、韓国への輸出が先行しており、日本市場については情報があまりないようだったが、関心が高いことを感じた。

また5月には、東京都内のホテルで開催された国際会議に参加する機会を得たが、こちらは会議名も「Japan Biomass Power Market」と銘打たれたもので、東南アジアを中心に北米やニュージーランド、ヨーロッパなど世界各国から200名もの参加者があったという。こちらは完全に日本市場にフォーカスしたものであり、その熱気に驚いたというのが正直なところであった。

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2. 輸出増加の根拠

このように日本市場の熱い視線が注がれている背景には、実は石炭火力発電の動向が密接に関係している。IEA Bioenergy Task 40が、2013年8月に出版した「Low Cost, Long Distance Biomass Supply Chains(2014年4月に改訂版が出版)によれば、2010年には20万tだった日本と韓国の両国を合わせたペレット輸入量が、2020年には1,350万tにも達するとの予測を示しているが、この根拠となっているのが両国の石炭火力発電の動向である。

韓国は、2020年までに温暖化ガス(GHG)を30%削減するという野心的な目標を持っており、かつ発電事業者はRPS制度により2%の再生可能エネルギーの導入を義務付けられていることが、石炭火力発電のバイオマス混焼拡大のドライバーとなっている。実際に、韓国ではペレットの輸入が急増して2014年の輸入量は28万tに達し、2020年には500万tにまで増加すると予測されている【*2】。

他方、日本の輸入量は2014年段階では10万t弱に留まっていたが、今後増加することが予想される。石炭火力発電所の増設が見込まれているからである。日本では、電力自由化により安価な石炭を燃料とした40基以上の石炭火力発電の新設計画があり、その内かなりの発電所がバイオマスの混焼を計画していると見込まれている【*3】。更に日本の場合は、石炭混焼を含む大型のバイオマス発電所についても、FIT制度による買取の保障がされている【*4】。石炭混焼のために追加的に必要な設備は、バイオマス用のサイロやホッパーと破砕機のみで数億円で済むと言われているため、数十億円をかけて5,000kW級の発電所を新設するよりも遥かに旨味があるのである。

そのため、これまで日本の石炭火力混焼は技術的に数%の混焼率が限界とされていたが、より高い混焼率を目指す発電所が登場している【*5】。例えば、大阪ガスパワー㈱が2016年に愛知県に建設を計画している110MWの石炭火力発電所は、30%というこれまでにない高い割合でのバイオマス混焼を計画している。

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表:バイオマス輸入量の増加見通し(100万t)

  2010 2015 2020
西ヨーロッパ 10.8 16.4 22.8
日本・韓国 0.2 3.8 13.5
中国 0.6 3.0 10.0
北アメリカ 3.4 4.3 5.6

出所:IEA Bioenergy Task 40

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3. 本当に輸出は増加するのか?

こうした状況下にあって、日本林業は安定的なバイオマス燃料の供給が難しいことも知られているため、世界のバイオマス・サプライヤーや商社が色めき立つのはやむを得ない。

そんななか2015年6月に、電源開発や大阪ガス、宇部興産の協同出資会社が山口県宇部市で計画していた石炭火力発電所は、環境アセスメント手続きの中で、環境省は「是認しがたい」とする意見書を経済産業省に提出した。理由は、ちょうど同月に発表された、日本のCO2削減目標(2030年に2013年比26%減)を鑑みると、東日本大震災後増加する石炭火力発電の新設計画は是認できない、というものであった。環境省は環境アセスメントを厳格化する方針であり、現状で事業者側から発表されている計画どおりに石炭火力発電所が新設・稼働していくかどうかは不明瞭である。ただし、宇部市の環境アセスメント手続きにおける不同意の理由は、電力業界全体が参加する新たなCO2削減のための行動計画が明らかになっていないことであり、逆にこの行動計画の中で、バイオマス混焼が石炭火力新設の「免罪符」として使われる恐れもある【*6】。

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4. 東アジアも持続可能性基準の導入を

とはいえ、バイオマスの貿易量は世界的に増加傾向であることは間違いない。特に、2020年までに20%という高い再生可能エネルギーの導入目標を掲げるEU諸国の内、森林資源が豊富ではないイギリス、オランダなどが大量のバイオマスを輸入している。ただし日本と異なるのは、バイオマスの持続可能性を確保する仕組みか考えられていることである。

イギリス、オランダ、ベルギー、デンマークは、国ごとに、固体バイオマスについての持続可能性基準を策定している【*7】。EUレベルでの基準策定も目指されたが、(液体の)バイオマス燃料とは異なり、実現していない。そんななか、2013年に、欧州の主要な発電事業者7社【*8】が連携して、Sustainable Bioenergy Partnership(SBP)と呼ばれる、自主的な持続可能性基準を策定した。SBPのポイントとして、①燃料の原材料については森林認証を基本とし、森林認証を取得できない場合の代替スキームを提供していること ②バイオマス生産からエネルギー転換までの炭素収支については、数値基準は設けなかったが、モニタリングを義務付けたこと ③バイオマス燃料の貿易の広域性を考慮して国際スキームとしたこと の3点を指摘しておきたい。②については、コジェネを義務付けている国と、化石燃料比でのCO2排出量の削減基準を設けている国があり、違いに配慮したものと見られる。

これらを踏まえると、日本においても、バイオマス輸入国である韓国や中国と協同のスキームを前提とするのが望ましいだろう。また、コジェネ義務付けについては、石炭混焼の場合よりも、むしろ全国で100カ所以上も計画されているバイオマス専焼発電が問題である。これらの発電所は立地にあたって熱需要への近接を考慮しておらず、新たに熱需要施設を隣に建設するということでは、総エネルギー消費量の削減に繋がらない恐れもある。そこで現状では、発電所単位ではなく事業者単位での義務とし、別の場所でもバイオマス熱供給事業を期限内に取り組むことを約束させるなどが現実的である。筆者らは、これまでも日本国内における固体バイオマス燃料の持続可能性基準の必要性について訴えてきた【*9】。その後、持続可能性基準の必要性が十分に理解されたと言いがたいが、そろそろ本当に実現させる必要があるのではないだろうか。

相川高信(三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱
森林・陸域生態系グループ主任研究員)


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