(3)社会的に持続可能なバイオマス利用

 社会的に持続可能なバイオマス利用に関する問題としては、食糧との競合や、輸入バイオマスと森林破壊、あるいは発展途上国で生産されるエネルギー作物生産における児童労働や土地からの強制退去などの人権問題などが挙げられる。カーボンニュートラル(炭素中立)なバイオマス資源を日本が使う一方で、それらの生産現場では悲惨な状況が繰り広げられているという、カカオやバナナなど換金作物栽培でしばしば行われてきた問題を、繰り返さないよう配慮すべきであろう。すでにマレーシアやインドネシアなどにおいて、パームオイルプランテーション拡大で問題と思われるケースが生じている一方でパーム油関連企業などが「持続可能なパームのための円卓会議」を設立するといった動きも出ている*2。


オイルパームプランテーション造成のために皆伐された森林(サラワク州北部)
写真撮影:峠隆一

(4)環境面で持続可能なバイオマス利用

 環境・生態系保全の面から見ると、自然資源の持続可能な管理がポイントとなる。特に発展途上国からの輸入バイオマスにおいては、この面に配慮する必要がある。現に日本が輸入している木材の2割以上が違法伐採であると指摘されており、安価な木質バイオマスを求めるあまり、こうした状況を助長すべきではない(合法的な材であっても、貴重な原生林を伐採したものもあり、注意が必要である)。
 また、ライフサイクルアセスメント(LCA)を実施して、廃棄物処理など他の目的を考慮してもなおエネルギー収支がマイナスになる事業も、避けるべきであろう。

(5)バイオマス取り組みの二つの方向

 今後の持続可能なバイオマス利用は、大きく二つに分けられよう。一つは、主に農山村における地域発展の中でのバイオマス利用である。農林業を振興しながら、地元資源の付加価値化、エネルギーの地産地消や観光資源化などを含め、地域の社会的発展の中で適切にバイオマスを利用するというもの。例えば、山梨県の「NPO法人えがお・つなげて」や、ブラジルのポエマ計画、コロンビアのガビオタスなどである。
 もう一つの利用の形は、都市部における廃棄物バイオマス、輸入バイオマスである。グリーン証書(電力、熱、ガスなど)や燃料の利用(木質ペレット、バイオエタノール、バイオディーゼル、水素キャリア等)の利用なども含まれよう。これらもコストパフォーマンスやLCAを見極めながら、経済、社会、環境それぞれの面に配慮しつつ、適切に利用推進が行われることが望ましい。
 バイオマス利用に適しているケースでは採用し、そうでなければ使わずに待つか他の方法を当たる、あるいは環境整備を先に行うといった、ごく当たり前のことである。最も望ましいバイオマス利用(ベスト)を追及しつつも、その過程においては、持続可能な産業社会の実現という目的に合致する他の選択肢を勘案しながら、よりよい方法(ベター)を探っていくことになろう。


*2 その他、国内においては、バイオディーゼルの原料となる廃食油の飼料用など他の用途との競合の問題などがある。バイオマスエネルギー利用を絶対視するのではなく、経済的・社会的・環境的に適正な利用を柔軟に判断していくべきであろう。