2.日本の森林資源活用へ向けての取組み

(1)加速する木質ペレット利用

2007年、原油価格高騰なども受け、木質バイオマス利用の取組みも進んだ。

9月、日本木質ペレット協会が設立され、熊崎実氏が会長に就任。(財)日本住宅・木材技術センターは木質ペレットの業界自主規格素案【*1】をまとめた。また、全国に先駆けてペレットストーブの普及を行なってきた岩手県では導入台数が1000台を突破。一方、ここ数年で20カ所以上の大型木質ペレット工場が完成したが、需要とのバランスがとれず、休止状態に追い込まれる施設も出ている。

これまで木質ペレットはストーブ需要が見込まれていたが、重油価格の高騰もあり、ハウス暖房等のボイラー、給湯、冷房や空調など通年での利用へ向けた取組みが各地で進みつつある【*2】。

一方、2007年6月、関西電力がRPS法対策として2008年から5年間、年間約6万トンの木質ペレットをカナダより輸入し、舞鶴火力発電所で石炭に混ぜて燃焼させるというニュースが発表された【*3】。木質ペレットの長期輸送契約は国内初であり、今後こうしたエネルギー向けバイオマスの輸入が増えていく可能性があるが、違法伐採木材など持続可能性や長距離を輸送することによるエネルギーロスも考慮していくべきであろう(下記コラム参照)。

(2)港区とあきる野市の新しい取り組み

2007年5月、東京都港区とあきる野市は「みなと区民の森づくり」に調印した。これは港区が計画するCO2排出量削減の一部を、あきる野市の森林整備によってまかなおうとするものである。港区民らが森林整備ボランティアを行い、引き換えにエコポイントを獲得する。森林整備によって搬出された間伐材は、あきる野市の温泉施設に設置されたバイオマスボイラーで使われたり、貯金箱等の小物に加工され、エコポイントと引き換えに還元される(図)。通常、間伐材をバイオマスボイラー等に利用することは搬出コストがかさむため難しいが、こうしたしくみにより実現可能となったのである。

みなと区民の森づくり

みなと区民の森づくり

(3)上勝の中学校の薪ストーブと地域通貨実験

上勝町の地域通貨実験

図:上勝町の地域通貨実験

温泉施設へのバイオマスボイラー導入や、地域通貨を使ったバイオマス活用実験(図参照)などを行なってきた徳島県上勝町では2007年、中学校に薪ストーブを4台導入した。中学生は、木質バイオマススクールとして、学校周辺の山林で間伐・搬出・薪割りも体験。「中学生たちはあっという間に薪ストーブの扱いを覚え、休み時間にはストーブの周りに集まる。環境教育効果も高い(上勝町産業課 吉積弘成氏)」と、着実な取組みを行なっている(目次写真参照)。

コラム木質バイオマス燃料の輸送距離の環境負荷の推定

2003年に設立したウッドマイルズ研究会*は、再生産可能であり製造過程の環境負荷が少ない木質建材をエコマテリアルとして評価する場合、遠距離を輸送してきた輸入木材製品の輸送過程の排出量が製造過程の何倍にもなるという点を取り上げ、地場産材の利用や近くの木で作る運動などを支援してきた。鉄や石油に比べてみると、木材の場合、資源の調達場所である森林が地球上に広く分布し、地域分散型の集配システムが比較的容易につくれるため、特にウッドマイルズの持つ意味は大きい。

最近バイオマスエネルギーが注目され、木質バイオマス燃料の需要が高まってきている中で、木質バイオマス燃料を輸入するケースが出てきている。木質資材である木質バイオマス燃料の場合、その機能が「エネルギーの供給」であるため、輸送過程の環境負荷のエネルギー評価は、建築材料より分かりやすい。一般にバイオマス燃料は化石燃料に比べてエネルギー密度が低く、輸送には不向きである。表は、石油、石炭、木材チップ、ペレットのエネルギー密度と輸送した場合のエネルギー収支である。

表:エネルギー種別エネルギー密度と輸送した場合のエネルギー収支

単位当たり発熱量:MJ/kg自動車輸送した場合の
エネルギー消費収支限界:km
石油41.912739
石炭32.29786
木材チップ9.02736
木質ペレット15.94837
備考エネルギー経済統計要覧、
岩手県木質バイオマス研究会など
自動車輸送の単位消費エネルギーは
エネルギー経済統計要覧2007年版による
図:輸入ペレットと地域材ペレットのエネルギー収支

図:輸入ペレットと地域材ペレットのエネルギー収支

Wood Fuels Basic Information Pack (Jyva¨skyla¨, Finland,2000)
ウッドマイルズ研究会、岩手県木質バイオマス研究会

木材チップは石油と比べると、エネルギー密度は4-5分の1(単位重量当たりであり単位容積当たりとするとさらにその差は拡大する)であり、このエネルギーを使って自動車輸送した場合、木材チップでは2700キロメートルを超えると、輸送エネルギーを負担できなくなる。その上製造過程でエネルギーが必要なので、カーボンニュートラルといっても遠距離を運ぶ場合の負担は大きい。

木質バイオマスエネルギーの分野でエネルギー密度を高くし輸送効率を改善している木質ペレットを例にとって、長距離輸送した場合のエネルギー効率を試算した結果を紹介しよう。上図は、長野県で行われたセミナーの準備のための作成した資料で、北米産のペレットを長野県で利用した際のエネルギー収支を試算した結果である。輸入される木質ペレットはカナダのバンクーバーから600H以上内陸に入ったQ市にあるペレット工場で製造され、そこからバンクーバーまで陸送(ケース1は鉄道、ケース2はトラック)、バンクーバーから東京港までコンテナ船、東京港から長野市までトラック輸送という仮定をおいている。

発熱量を100とした場合、加工過程で10のエネルギーを使い、輸送過程では、20から35程度のエネルギーを消費することになる。木質バイオマスエネルギーを供給する場合、可能な限り地場産の原料を使用する重要性がわかる。

<藤原 敬(ウッドマイルズ研究会代表運営委員)>

*ウッドマイルズ研究会HP http://woodmiles.net/

コラム「食育」の次に「住育」を!

国産材が使われない理由

2007年、国産材は「世界で最も安い」と言われるほど価格が下がった。しかし、人工林で木材需要をほぼまかなえるだけの資源量があるにもかかわらず、国産材の利用は2割程度にすぎない。国産材の主な用途は戸建住宅だが、大手ハウスメーカーはまとまった量の調達や品質(ほとんどが乾燥されていない)などの点から、大半は輸入材を使用しており、国産材住宅はもっぱら中堅ビルダーや工務店が担っている。国産材のシェアが下がった理由は、自由化による安価な輸入木材の流入、円高、構法の変化、安定供給・流通の問題、小規模製材所の集約化が進まないなど様々だが、日本や世界の持続可能性、国土管理、中山間地活性化、環境負荷の少ない資材調達など多くの理由から、国産材利用推進が望ましい【*】。

バイオマス利用においても、日本で利用可能なバイオマス資源の半分以上が森林由来のバイオマスであり、折からの原油高によって地域のバイオマスへの需要は高まりつつあるが、日本の人工林における林道が必要とされる水準の1/10以下という状況であり、エネルギー利用のために材を山から下ろすことは難しい。

「食育」の次に「住育」を!

国産材の抱える問題は多岐に渡るが、日本の森林を適切に使いながら管理するためには、市民、企業、行政、各分野の専門家など国民的な関心を高めることが欠かせない。

農水省は、近年、栄養学や食文化、日々自分たちが食べるものがどこからどのような形でもたらされているかを知り、選ぶ「食育」を推進している。同様に「住」についても、自分たちが住む家や学校・職場・さまざまな施設などの建物がどのようにつくられ、自分たちの健康や日本や世界の森林とどのように関係しているかを知ることも、非常に重要である。

(財)日本木材総合情報センターでは、木づかい運動の一環として、「木育」を提唱しているが、これを拡大し、子どもだけでなく大人も含めた幅広い分野にわたる「住育」が必要ではないか。地球温暖化や森林保全などに関心をもつ人々は増えているが、「具体的に何をすればよいか」「何が問題で、どうすればよいのか」についての情報は充分ではないように思われる。

なお2008年度に、「住育」普及に向けての活動を行なっていきたいと考えている。関心のある方は、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク事務局までご連絡いただければ幸いである。

<泊 みゆき(NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長>

*国産材利用にかかわる問題については、例えば 田中淳夫『だれが日本の「森」を殺すのか』洋泉社 等を参照のこと

コラム薪炭利用キャンペーンが始動

「人にかえる。火のある暮らし」と銘打つ「日本の森林を育てる薪炭利用キャンペーン」が、本格的な活動を開始した。国内の薪炭等の木質バイオマスを、今の時代にそくした形で暮らしの中に取り戻し、家庭では家族のきずなを育み、海外の森林資源の枯渇への影響を軽減し、放置されている日本の森林を活用し育てることにつなげようということで、関心のある団体や個人のネットワーク化、メールマガジンの発行、薪炭の魅力やとりまく状況の情報発信、情報交流、イベント開催など活発な活動を行なっている。

薪炭利用キャンペーン

*日本の森林を育てる薪炭利用キャンペーンHP http://www.sumimaki.org/top.htm