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はじめに  木質バイオマス発電は、「魔法の杖」ではない

現在、日本で未利用材などを燃焼させる木質バイオマス発電の計画は、60件以上あり、その出力を単純合計すると70万kWを超え、想定される燃料用木材需要は700万㎥規模に上る。九州では17件以上の計画があり、もしすべて稼働すれば、現在の素材生産量に匹敵する新たな木材需要が生まれる。常識的に考えて、1〜2年で調達が可能な数量とは思えない。

この事態に対し木質バイオマスの専門家たちは、「未利用木質バイオマス発電の議論はもう終わっている」、「自治体主体の木質バイオマス発電計画は、数年後にはバタバタつぶれているだろう」、「つぶれるならつぶれろ」、「大規模製材所をつくるときも材を出すと言っていたが、集まらなかった」等々辛らつである。

民間事業者が失敗するのはともかく、自治体の助成などで税金を投入しているケースも多く、また燃料を無理にでも調達しようとして地域の森林が十分な配慮なしに皆伐されれば、後々まで影響が及ぶ。「若い人が、将来困るような負の遺産が地域にできることを怖れる」という声もある。

岩手大学の伊藤幸男准教授は、「木質バイオマス発電事業の核心は、どれだけの木質燃料が必要かということに尽きるが、森林資源の量と質の問題、つまり地域林業の生産力水準、林業労働力と路網などの道路、この要素でバイオマス供給量が決まる。それと地域の木材産業の集積度合いが重要で、森林があっても使う産業が控えていないと、バイオマスを供給するしくみはできないが、これには地域差がある。総合的にその地域でどれだけの量の木質バイオマスが集められるか、入念に調べる必要がある」と指摘する。

バイオマス産業社会ネットワークが1999年に設立されて以来、日本のバイオマス利用を見てきた。2011年の総務省のバイオマス政策評価で「8割の事業で効果がなかった」と酷評されたが、今の未利用木質バイオマス発電狂想曲は、同じ流れにあるように見える。綿密に計画されている案件がある一方で、ずさんな事業構想、楽観的すぎる燃料調達、現場を知らない一部の人たちが暴走しているケースも見受けられる。輸入バイオマスも、安定的に一定価格で輸入することは、そう簡単ではない。

日本の森林資源は成熟期に入り、木材生産が増える一方で、人口減、市場規模縮小傾向などで長期需要は伸び悩んでいることなどから、木質バイオマス発電に期待をかける構造が生まれている。現在、多くの山間地域は、バイオマス発電所を誘致すれば、地域の未利用材の大需要先が生まれ、雇用も増える…という話に飛びつきたくなる状況にある。しかし、未利用木質バイオマスで5000kWの発電モデルは、全国でも一部の限られた場所でなければ無理がある。木質バイオマス発電は、停滞する林業と地域の抱える問題を一挙に解決する「魔法の杖」ではないのだ。

結局、地道な人工林の団地化、路網整備、用材のマーケティング強化等により製材業を育てながらでなければ、製材業の副産物・廃棄物利用である、木質バイオマス利用はおぼつかない。未利用材は発電燃料の一部とするか、混焼、小規模コジェネレーションもしくはボイラーや薪ストーブなどの熱利用を行うのが現実的であろう。木質バイオマス利用が進むヨーロッパでも、熱利用を行わないバイオマス発電のみを行う例はまれである。ちなみに、ドイツでも木質バイオマス発電は、FIT開始後に次々建設されたが、現在では破綻しているものも多い【*】。金沢市のように一般廃棄物発電施設に間伐材を混焼するといった方法もある。

引き返す勇気も、ときには必要ではないだろうか。

<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>

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