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トピックス 持続可能なバイオマス利用に向けて

2 森林バイオマスの持続可能性

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1. 森林バイオマスの利用と気候変動

図2にあるように、近年、木質ペレットの輸入が急増しており、そのなかには製材端材からではなく、全木を原料とするものが増加していると考えられる。バイオマスは生産、加工、輸送にエネルギーを消費し、その過程でメタンガスなど他の温室効果ガスも排出することがある【参考】。それに加えて、森林から伐採された全木をバイオマスエネルギーとして燃焼させた場合の問題点が国際的に指摘されている。

森林バイオマスをエネルギーとして利用する場合、樹木が成長して大気中の炭素を再吸収するのに長い時間がかかるため、「炭素負債(炭素の吸収より排出の方が多い状態)」の期間が長期にわたる。この期間中、バイオマスからのCO₂排出は温暖化の問題を悪化させている。大気中のCO₂が増加するこうした「負債」を返済するには数十年あるいは数百年を要し、それも樹木が再生できる場合に限られる【*7】

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図4:森林バイオマスの類型別の石炭、天然ガスに代替する場合の年数

図4:森林バイオマスの類型別の石炭、天然ガスに代替する場合の年数【*8】

(日本語仮訳はNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク)

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図4は、森林バイオマスを石炭、天然ガスに代替する場合の年数を算定したものだが、炭素の代替として均衡するまでの期間は、伐採で百年以上かかるという結果となっている。

2019年に公表された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の土地特別報告書において、「木材に含まれる炭素が木材製品(木質パネル、家具など)に利用される場合、これらの製品は長期にわたり炭素を貯蔵できる。だが、バイオマスをエネルギーとして利用する場合、炭素はより速いスピードで大気中に再び放出される」と指摘されている。

カナダは2001年から2017年にかけて森林被覆の9.2%に相当する3,860万haを失った。ペレット工場の木材需要は、絶滅危惧種であるカリブー(トナカイ)の生息域にもおよび、先住民族との土地をめぐるトラブルが生じているケースもある。

米国南東部で大型ペレット工場を経営しているエンビバ(Enviva)社のペレットは、約8割の原料が全木を原料とし、その過半数が湿地林を伐採したものである(表紙下写真参照)。湿地林の伐採は生物多様性と洪水防止機能を損ない、住民の反対運動が起きている【*9】。エンビバ社の木質ペレットは、2020年以降、数百万トン単位で日本に輸入される見込みである【*10】

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エンビバ社のペレット工場(ノースカロライナ州アホスキー)

エンビバ社のペレット工場(ノースカロライナ州アホスキー)

(写真提供:Dogwood Alliance )

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パリ協定の目標を達成し、気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには、森林は炭素の吸収源となり長期的な貯蔵庫としての機能をさらに果たしていくべきである。これを実現するためには、既存の森林を保護し、早生樹の植林地転換するのではなく、伐採されたり劣化した森林を生態学的に回復させる必要があると指摘されている【*11】

FIT制度において、木質バイオマスの温室効果ガス(GHG)削減効果を考慮する際、こうした森林バイオマスの特質についても配慮することが必要だと考えられる。

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2. ベトナムの木質ペレットをめぐる課題

FIT制度では、輸入木質ペレット等に関し、林野庁が定めた「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」【*12】によって合法性の確認が求められており、多くのバイオマス発電事業者は、FSC等の森林認証によって対応している。

2019年、ベトナムからのペレット輸入が急増したが、ベトナム産のFSC認証ペレットについて認証偽装の懸念を示す報道が相次いだ【*13】。その懸念は、ベトナムにおける現在のFSC認証の栽培面積から推定される木材生産量に対し、日本と韓国に輸入されるペレットの量が多すぎることなどからきている。

環境NGOが2019年に実施したバイオマスサプライヤーおよび発電事業者を対象としたアンケート調査【*14】においても、取引相手がCoC認証を得ていることを確認することで、トレーサビリティを確保できているとの回答があるなど、FSC認証制度の内容を十分理解していないケースが見られる。

NPO法人バイオマス産業社会ネットワークも、以前より森林認証制度を用いたトレーサビリティの確認方法について関係者にわかりやすく伝える必要性を指摘してきた【*15】

2020年6月、FSCジャパンは「FSC森林認証制度をバイオマスの固定価格買取制度(FIT)に活用する際のご注意」【*16】というリリースをWebサイトに公開した。このリリースにおいて、FSC認証材はFSC認証取得者からしか調達できないこと、FSC認証取得者からの木材がすなわち認証材とは限らないこと、FSC認証材=FSC認証林から生産された木材とは限らないことなどが説明されている。

FSC認証制度に「管理木材」というカテゴリーがあり、この「管理木材」はFSC認証材そのものではないが、違法伐採木材ではないことなどが確認された材である。ただし

「管理木材」は、FSC制度上、FSC認証取得者間でのみ取引が認められているものである。また、FSC認証ペレットのなかには、建設廃材等を原料とするものがあることも指摘している。FSCジャパンは、同資料において、「FSC認証材の確認の仕方」についてのフローチャート図を掲載している(図5)。

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図3:バイオマス持続可能性ワーキンググループ中間整理(概要)

図5:FSC認証材の確認の仕方

(FSCジャパン)

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「管理木材」が、FSC認証取得者間でのみ取引されるものという認識が欠けているケースが見受けられる。また、建設廃材を原料とするものは、FIT制度では「リサイクル木材」に区分され、「一般木質バイオマス」とは異なる電力買取価格となる。このように、FIT制度上問題のある運用が行われてきた可能性がある。

管轄官庁によるチェック強化やバイオマス発電事業者に向けたガイドラインの充実などによって、木質バイオマスのトレーサビリティをより確実に確保する方策が必要だと考えられる。

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コラム③ 森林減少ゼロに向けた世界の取り組み

世界の森林は急速に減少し続けている。国連食糧農業機関(FAO)が5年に1度、報告する「世界森林資源評価(FRA)2020」では、90年代と比べ森林減少のスピードは鈍化しているが、2010~15年には年1,200万ha、15~20年も年1,000万haの天然林が失われ、過去30年間で世界は4億2千万ha(日本国土の11倍)もの天然林を失った。

森林減少の原因の8割は農地開発で、特に影響が大きい産品として紙パルプ、パーム油、大豆、牛肉が挙げられている。これらの持続可能な生産と消費のための取り組みとして、1994年に森林認証制度FSC(森林管理協議会)が、2004年にパーム油のRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証が生まれた。

小売りと流通企業の国際的ネットワーク団体コンシューマー・グッズ・フォーラム(TCGF)は、2010年に上記4つの産品を対象に「2020年までに森林破壊のネットゼロをめざす」という目標を設定した。その後民間セクターから同様の声明が複数出されたことを背景に、2014年の国連気候変動サミットでは「森林に関するニューヨーク宣言」が採択され、「2020年までに自然林の減少率を世界全体で半減、2030年までに自然林の減少を終わらせるよう努力する」とされた。

2015年に国連が採択した持続可能な開発目標 (SDGs)では、「2020年までに森林減少を止める」目標15.2が盛り込まれた。日本政府もニューヨーク宣言に署名し、SDGsには政府、自治体に加え多くの企業が取り組んでいる。

森林減少ゼロとは、どのように実現可能なのだろうか。多くの地域では原生林はあまり残っておらず、開発リスクが高い二次林を含む天然林の開発抑制が重要である。そのためのツールとして高炭素貯留アプローチ(HCSA)が開発された【*】。RSPOでは2018年以降、新規農園開発の認証ではHCSAの実施を求め、FSCは二次林を含む天然林の開発を原則的に認めていない。しかし他の多くの認証では、開発規制の対象が原生林などHCV(高い保護価値)の森林に限られている。これらの認証だけでは森林減少ゼロは達成できず、消費国側からもHCSAの活用などをサプライヤーに呼び掛けることが重要と言えるだろう。

2019年、世界各地で激しい森林火災が起き、多くの森林が失われた。2020年はニューヨーク宣言での森林減少率半減、SDGsでの森林減少ゼロの目標年だが、目標の達成は困難と言えるだろう。今後、できるだけ早期に新たな目標年を設定し、達成に向けた明確なロードマップを作成する必要があるだろう。それらの確実な実施に向けて、生産国と消費国の政府、企業、研究機関、NGOなどあらゆるステイクホルダーによる、より強い協力が求められている。

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ボルネオ島サラワクのアブラヤシ農園に開発された森林

ボルネオ島サラワクのアブラヤシ農園に開発された森林

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<地球・人間環境フォーラム 飯沼 佐代子>

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  • *1  HCSAアプローチについては、例えば「こちら」を参照
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