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2021年の動向

2 国内の動向

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1. バイオマス等利用の状況

環境省によると、2020 年度の我が国の温室効果ガス総排出量は、11億4,900万CO₂トンで、前年度の総排出量(12億1,100万CO₂t)と比べて、5.1%(6,200万CO₂t)減少だった【*28】

エネルギー白書2021によると、日本で2019年度に利用されたバイオマスエネルギーは原油に換算すると1,829万klで2018年の1,789万kWから2.2%増加し、一次エネルギー国供給量49,390万klに占める割合は3.7%だった【*29】

林野庁木質バイオマスエネルギー利用動向調査によると、2020年にエネルギーとして利用された木質バイオマスのうち、木材チップの量は1,041万6,745絶乾tとなり、前年に比べ10.5%増加した。このうち、間伐材・林地残材等に由来する木材チップは391万289tで前年に比べ29.1%と大幅に増加、製材等残材に由来する木材チップは167万4,169t、建設資材廃棄物に由来する木材チップは419万7,519tであった【*30】

矢野経済研究所のバイオマスエネルギー市場に関する調査によると、2021年度の日本国内のバイオマスエネルギー市場規模は7,261億円、前年度比8.3%拡大の見通しで、2035年には1兆7,215億円に増加すると予測している(図14)。

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図14:バイオマスエネルギーの市場推移・予測

図14:バイオマスエネルギーの市場推移・予測

出所:矢野経済研究所Webサイト【*31】

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全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会によると、2019年のバイオディーゼル燃料の製造量は14,062klで、前年の13,187klから微増した。製造コストは、単純平均で216.9円/L、中央値は134.3円/Lだった【*32】

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2. 政策の動向(経済産業省の政策はトピックス①参照のこと)

2021年10月、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す地球温暖化対策計画が閣議決定された。また、同じく6月に閣議決定された成長戦略実行計画において、「カーボンプライシングなどの市場メカニズムを用いる経済的手法は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資するものについて躊躇なく取り組む。炭素税や排出量取引については、負担の在り方にも考慮しつつ、プライシングと財源効果両面で投資の促進につながり、成長に資する制度設計ができるかどうか、専門的・技術的な議論を進める」と記された。経団連も炭素税の導入議論を容認している【*33】

2021年7月、総務省は、木質バイオマス発電をめぐる木材の需給状況に関する実態調査の結果報告書を公表した【*34】。木材需給のひっ迫は、木材調達の不調や調達範囲拡大に伴う温室効果ガス増加に影響するため、木質バイオマス発電の拡大が地域の木材需給のひっ迫を招かないようという意見を示した。

2021年6月、地域脱炭素ロードマップが策定された【*35】。少なくとも100か所の脱炭素先行地域し、重点対策を全国津々浦々で実施していくとしている。

木質ボイラーの導入数は2014年より頭打ちになっているが、林野庁が推進する地域内エコシステムでは、木質バイオマスの熱利用・熱電併給の一層の推進を目指し、従来の成功事例や失敗事例を分析した成果を活用できるプラットフォームを整備し、産学金官など多様なステークホルダが自由に参画できる環境を構築し相乗効果を生み出すことを目的に取り組みが行われている【*36】。2021年12月、日本農林規格調査会で木質ペレットJAS規格が承認された【*37】。総務省は、人口急減地域の担い手を確保するため、季節ごとの労働需要等に応じて複数の事業者の事業に従事するマルチワーカーに関わる労働者派遣事業等を行う特定地域づくり事業協同組合制度を推進している【*38】

農水省ほかは、「食料・農林水産業の CO₂等削減・吸収技術の開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画として、バイオ炭などの推進などを打ち出した【*39】

2022年1月、海洋プラスチックごみ問題などを受けて、プラスチックに関わる資源循環の促進等に関する法律施行令が閣議決定された【*40】。2022年4月1日より施行される。

京都市では、条例により、延べ面積2,000㎡以上の新築または増築を行う特定建築物への地域材利用やバイオマスボイラー等の再生可能エネルギー利用設備の設置を義務付けている【*41】

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3. 国内の利用動向・事例等

2021年7月に設立された出雲市の地域新電力「いずも縁結び電力」は、将来的に公共施設の省エネルギー化を実現するESCO事業の実施を検討するとしている【*42】

2021年11月、愛知県半田市でビオぐるファクトリーHANDAが運転を開始した。家庭生ごみ、食品廃棄物、家畜糞尿をトリジェネバイオガス発電する【*43】。北海道恵庭市の恵庭下水終末処理場では、し尿と生ごみによる民設民営のバイオガス発電が稼働、隣接するごみ焼却場の熱で汚泥を乾燥し焼却している【*44】。2021年6月、オリックス資源循環は1,600kWと国内最大の乾式バイオガス発電施設、寄居バイオガスプラントを竣工した【*45】

株式会社リグノマテリアほかは、スギを原料として製造する新素材「改質リグニン」を製造する実証プラントを竣工し、試験生産を開始した【*46】。三井化学は、植物油廃棄物や残渣油等を原料に製造されたバイオマスナフサからのバイオマス誘導品の生産を開始した【*47】

2021年6月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は木質系バイオマスと微細藻類を原料とする代替航空燃料(SAF)それぞれ2種を国内定期便に供給したと発表した【*48】

2021年6月、NHKはクローズアップ現代で、「独自取材 再エネビジネスの“ゆがみ“~脱炭素社会の裏で~」と題し、バイオマス発電事業会社の不正行為について社員の内部告発をもとに報じた【*49】

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コラム⑥ ナノセルロース利用の最新動向

約0.03mm幅の植物セルロース繊維を、100nm幅以下に解繊あるいは微細化することで得られる「ナノセルロース(Nanocellulose:NC)」類は、再生産可能な森林バイオマス、特に国内の未利用で放置されている針葉樹林地残材から製造可能な、大気中の二酸化炭素の固定化物である新規バイオ系ナノ素材として注目されている。NCが汎用および機能材料として質的・量的に拡大することは、化石資源依存型から循環型社会基盤および低炭素社会への転換、SCGsの何項目かの目標達成、植林-育林-伐採-利用の循環を進めることによる、疲弊した国内林業の活性化と大気中のCO₂の固定化促進などに貢献できる可能性がある。

既に一部のNCは、機能性スポーツシューズ、ボールペンのインキ分散剤、超消臭機能付きの大人用使い捨てオムツ、化粧品、食品添加物、高級自動車用メタリック塗料、コンクリート圧送先行剤、焼き物、トイレクリーナー等に利用されている。しかし、いずれもNCの特性を活かした少量・高機能用途であり、汎用材料、産業用材料にまでは拡大していない。その原因の一つが高価格にある。NCの原料である製紙用セルロース繊維(パルプ)は乾燥kgあたり60円程度と安価であるが、現状ではNCの生産量が少ないため、kgあたり数千円、数万円以上になってしまう。年間生産量が数千tレベル以上に増加すれば、乾燥kgあたり1000円以下に低下する。そうなれば、様々な分野での利用が期待されているが、現状では、高価でも販売可能な高付加価値・意匠性製品に限られている。全固体電池部材、触媒担体、医療材料、プリント基板、包装材料、電子部材、エアフィルター、断熱材等への利用に向けたNCの研究開発が進められている。

NCの用途拡大に期待される分野として、軽量高強度の高分子ナノ複合材料がある。高分子基材として石油系プラスチック、ゴム、樹脂などがあり、それらを合計すると年間国内需要量は1500万トン以上となる。平均1%のNC添加量でも15万トン程度の需要量となる。理想的なNCの高分子ナノ複合化が達成できれば、少量のNC添加で高分子複合材料の物性向上と、石油系高分子の使用量の削減、関連して海洋マイクロプラスチック問題の低減が期待される。しかし、既存のNC/高分子複合化プロセスでは、NCが極めて親水性で、高分子基材が疎水性のため、NC成分が複合化過程で凝集してしまい、ナノ複合化効果が発現しないばかりか、異物として物性低下になる場合がある。現在、コストと性能の観点からナノ複合材料として汎用材料、産業用材料にまでは展開できていない。しかし、様々な視点と各研究分野・産業分野の連携が進められており、膨大な関連研究開発が国内外で進められているので、数年以内に優れた研究成果とNCの量的な利用量の拡大が期待できる。

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図:樹木セルロースの階層構造と微細化処理によるナノセルロース類の調製

図:樹木セルロースの階層構造と微細化処理によるナノセルロース類の調製

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<東京大学大学院 農学生命科学研究科特別教授 磯貝 明>

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