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トピックス

2 バイオマスはカーボンニュートラルか?

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日本では毎年、2億㎥森林蓄積が増加しているにもかかわらず、木材の半分以上を輸入に頼っている。国内の森林資源をカスケード利用し、その副産物をバイオマスとして熱利用すると効率的である。FITがあるから、カーボンニュートラルだからと言って、輸入木材をバイオマス発電の燃料に使うのはありえないのではないか。船舶で輸送する際に重油を燃やし、森林が回復するまでのタイムラグもある。LCA(ライフサイクルアセスメント)を検討するなかで何が使うべき燃料なのか、エネルギーミックスでのバイオマスの位置づけを考える必要がある。国内産業の振興、国内の経済循環と再生可能エネルギー振興を結びつけることが重要である。

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1. 木材の収穫と燃焼がもたらす気候への影響

多くの研究が、樹木を伐採し燃やすことで数十年~数世紀にわたり温暖化を悪化させると報告している。こうした内容のレターに、IPCC(気候変動に関する国際間パネル)の元副議長を含む800人の科学者が署名し、少なくとも15の査読付き論文でも同様の見解を示している。

木質ペレットの多くは残材ではなく、丸太からつくられている。パルプ材と同様の材がエンビバ社のペレット工場に入っている。

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木質ペレット加工においてもCO₂が排出され、燃焼では化石燃料の1.5~3倍のCO₂が排出される。

森林の再生には時間がかかり、炭素負債が発生する。森林が再生する間にも伐採が行われる。ヨーロッパの木質ペレット消費は、2020年には、2011年の約3倍の3,000万トンに達している。米国のバージニア州とノースカロライナ州の全森林の伐採に相当する量の木材が必要だが、EUの最終エネルギー需要の0.5~0.7%を満たすにすぎない。予測される日本のペレット需要900万t/年は、バージニア州の森林すべてを要する。世界の一次エネルギーの2%を木材から供給するには、世界の商業用木材の収穫量を2倍にする必要がある。

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持続可能な森林管理を行っても、木材を燃やすと数十年から数百年にわたり大気中の炭素が増加する。持続可能な森林管理は、炭素負債の返済を最終的に可能にするが、今後数十年の気候変動を悪化させることになる。ある国の森林が成長していても、木材を伐採・燃焼することをカーボンニュートラルにはできない。森林の一部で炭素を失わなければ、森林全体はより多くの炭素を保持することができる。

IPCCは、木材を燃やすことで排出される炭素を無視することを認めていない。さらに、燃焼による排出量を無視しても、排出量は「減らす」ことができるだけである。バイオマスをカーボンニュートラルとする京都議定書や各国のキャップ・アンド・トレード法の適用ルールには、バイオエネルギーへのアクセスに関する炭素会計上の重大な欠陥がある。IPCC国別報告ガイドラインでは、木材を伐採した場合、「土地利用変化」による排出量として計上する。二重計上を避けるため、エネルギーによる排出ではカウントせず、メモすることになっている。

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もし、日本がエネルギー目的で木材を伐採して燃焼した場合、エネルギー分野における排出量は減るが、土地利用の変化による排出量は増え、総排出量は増える。石炭を減らして削減できる排出量よりも、木材を伐採・燃焼して失われる炭素量が多いからである。木を伐採しなければ森林がより多くの炭素を蓄えるため、日本の森林が持続可能であっても同じである。持続可能な森林管理を行っていればいずれ回復するであろうが、回復しない可能性もある。

IPCCの炭素会計処理は、バイオマスをカーボンニュートラルとして扱うことを意図していない。これは、日本がエネルギーセクターで排出量を削減する場合、森林での炭素の損失を発電所からの排出量としてカウントしなければならないことを意味する。しかし、バイオマスはカーボンニュートラルであると考えられるようになってしまった。

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2021年に公表されたEUレポートでは、バイオマスはカーボンニュートラルかは科学の問題ではなく政治の問題としているが、これは政治の問題ではなく、科学の問題だ。このレポートで30年内にメリットをもたらすのは残材のみという結果だった【*14】。科学を無視するのは、政治の問題である。日本政府には、助成金を出さないことを薦める。樹木が伐採されることで大気中に出る炭素をLCAでカウントしているかどうかが重要だ。誤解に基づいた道以外に進んでもらいたい。

輸出国の側で規制がされることが望ましいが、政治が不可能にしている。米国の排出が増えるにもかかわらず、それが理解されていない。米国では森林が拡大しているが、伐採すれば排出される。石炭火力の代わりにバイオマスを使うのは簡単だが、気候変動対策にはならない。回収・貯留(CCS)付きバイオマス発電(BECCS)についてだが、バイオエネルギーは排出ゼロではない。樹木を伐採するのであれば意味はない。すでに凍土は解け始めており、早急な手段が必要で、森林の再生を待つ時間はない。

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<緊急セミナー> 石炭より悪い?! 木質バイオマス発電は
2050年カーボンニュートラルに貢献するか

植物は成長過程でCO₂を吸収し伐採しても時間をかければ再生するという考えから、木質バイオマスは燃焼の際のCO₂はカウントしなくてよいとされてきたが、実際は、木材を燃やせば石炭以上のCO₂が排出される。

木質バイオマスをカーボンニュートラルとし、発電のために燃やすことは、実際にはCO₂濃度を押し上げる結果になるのではないか。また今後、バイオマス発電が気候変動対策とは見なされなくなるなどの移行リスクや、バイオマス発電所の座礁資産化というリスクが生じる可能性がある。

こうした問題意識から、バイオマス産業社会ネットワーク、地球・人間環境フォーラム、EoE Japan等森林や気候問題にかかわるNGOが協力し、バイオマスのGHG排出研究の世界の第一人者であるティモシー・D・サーチンジャー博士を迎え、2021年12月15日、衆議院第二議員会館およびオンラインで緊急セミナーを開催した【*】。

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ティモシー・D・サーチンジャー博士

ティモシー・D・サーチンジャー博士

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当日は、環境副大臣で自民党木質バイオマス議員連盟事務局長の務台俊介氏が挨拶され、プレイストン大学上級研究員ティモシー・D・サーチンジャー氏(写真)が「木材の収穫と燃焼がもたらす気候への影響」、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長の泊みゆきが「FITが支える輸入大規模バイオマス発電」、環境省、経済産業省からの発言および国立環境研究所地球システム領域領域長の三枝信子氏がコメントされた。約400名が参加し、活発な議論が行われた。

本稿は、当日の講演および議論に加筆修正を行ったものである。


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2. FITが支える輸入大規模バイオマス発電

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の目的は、環境負荷の低減、我が国の競争力の強化・産業の振興、地域の活性化である。FITバイオマス発電の現在の問題としては、①認定量の8割以上が輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマス発電の区分である(図4) ②パーム油や全木ペレットなど、持続可能性の問題のある燃料が使われている ③輸入バイオマスはエネルギー自給にならず、地域への恩恵が限られ、遠距離を輸送することからライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出がより高い傾向にある ④FIT制度の輸入バイオマス発電のため、8兆円を超える国民負担が予想される【*15】 ⑤新規認定はほとんど増えない見込みだが、700万kW以上の既認定案件をどうするかが問題である。

米国の木質ペレットは、生物多様性に富む湿地林を皆伐した木材が使われたり、マイノリティの人々の住宅近くに大規模なペレット工場が建設され、騒音・粉塵などの被害をもたらしている。カナダでは原生林がペレット原料用として州政府に伐採許可された(コラム④等参照)。

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2021年度の経産省バイオマス持続可能性ワーキンググループにおいて、バイオマス発電のGHG基準が提示された。2030年の化石燃料を使う火力発電の加重平均、180g-CO₂/MJ電力を比較対象として、新規認定にバイオマス発電のGHG排出を2030年までは50%減、2030年以降は70%減を求めるというものである【*16】。既認定案件に対しては努力義務である。

今後の新規認定案件はほとんどなく、700万kWを超える既認定案件をカバーしなければ、意味はない。

また、2030年以降70%減、54g-CO₂/MJ電力という値は、例えば、IEAの持続可能(SD)シナリオの27.154g-CO₂/MJ電力の2倍である(図6)。SDシナリオは、パリ協定の目標を達成するために世界で達成される必要があるとされる値であり、つまりこれよりも高い基準では、パリ協定を達成できない。パリ協定の目標達成に満たないバイオマス発電を、国民負担で支えるというのは疑問がある。2040年においても化石燃料をゼロにはできない以上、再生可能エネルギーは、より少ない排出量である必要がある。なお、図6では、国産の間伐材チップのGHG排出量が高いが、熱電併給にして利用効率を60%以上にすれば、充分低い値になる。

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図6:バイオマス燃料のライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出量試算と各基準

図6:バイオマス燃料のライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出量試算と各基準

※この図には、森林劣化・土地利用変化による排出は含まれていない
出所 持続可能性ワーキンググループ 第12回 資料より 泊みゆき作成

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EUでは、2021年に完全施行した改正再生可能エネルギー指令(REDⅡ)で2万kW以上の固体バイオマス発電の化石燃料比のGHG削減基準を、2021年以降の運転開始では70%減、としていた。2021年7月に公表されたREDⅢ改定案では、5,000kW以上の2025年末までに運転開始したバイオマス発電で70%減と強化している【*17】。すなわち、これまでに稼働したバイオマス発電所にも70%減を求めるという内容になっている。

森林と一言で言っても、自然林と人工林では炭素蓄積に違いがある。例えば、IPCCガイドラインによると、米大陸地上部のバイオマス量は、20年以上の自然林と20年未満の人工林では、3倍以上の差がある(図7)【*18】

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図7:米大陸地上部のバイオマス量(t/ha)

図7:米大陸地上部のバイオマス量(t/ha)

出典:2006IPCCガイドライン2019年版改良版
国家温室効果ガスインベントリ Vol.4
農業、林業、その他の土地利用

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自然林を伐採して人工林にした場合(森林劣化)、この差のCO₂は大気中に放出されたままということになる。木質バイオマスを燃やすとCO₂が排出されるが、熱量当たりの排出量は石炭よりも多い。米東海岸からのペレットによるバイオマス発電のGHG排出に燃焼を含むと、発電効率の差もあり、石炭火力のGHG排出より4割以上多くなる(図8)。

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図8:米国東海岸からの木質ペレットのGHG排出量と化石燃料との比較(燃焼を含む)

図8:米国東海岸からの木質ペレットのGHG排出量と化石燃料との比較(燃焼を含む)

出典【*19】より 泊みゆき作成

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こうして見ると、今回経済産業省がバイオマス燃料のGHG基準が提案されたことは前進だが、まだまだ課題は多い。特に、木質バイオマス燃料は、パーム油のように詳細な持続可能性基準が規定されていないので、その策定も速やかにされる必要がある。

森林が伐採された場合、それが再生されるかどうかは、数十年以上たたないと確定しない。検証する方法も難しく、再生されなかった場合の扱いも複雑になる。当面、FITのような政策的に支援するバイオマスのエネルギー利用は、原則として持続可能なバイオマスの廃棄物、残さ、副産物に限るのが妥当ではないか。

こうしたことを考えれば、森林を伐採したバイオマスが真に温暖化対策として有効か大きな疑問がある。パーム油発電には厳しい持続可能性基準が課され、パーム油の価格上昇もあって事実上の座礁資産化した。森林由来の木質ペレットを燃料とする発電も、いずれそうなるリスクがあると考えられる。

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3. 環境省LCAガイドラインの改訂

環境省は2021年、再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドラインの改訂を行った【*20】。輸入バイオマスを中心に、再生可能エネルギーのライフサイクルGHG排出量の算定方法に関する最新の知見を反映させた。

改訂した主な内容としては、①森林からの木材搬出に伴う温室効果ガス排出 ②海上輸送(復路便の取り扱い) ③配分対象(アロケーション) ④国外における施設・整備の建設・解体 ⑤間接的土地利用変化 ⑥温室効果ガス排出削減活動 ⑦個別データの提示 ⑧ケーススタディの実施 である。

温室効果ガスの削減効果が十分でない可能性のあるバイオ燃料としては、森林減少(森林から農地への土地利用変化)を伴う事業や泥炭地の新規開発を伴う事業等について、本ガイドラインを適用する以前に、関連する知見を利用し事業の意義を再検討すべきとした。

森林からの木材搬出に伴う温室効果ガス排出の取り扱いについては、森林からの木材搬出を行う事業において、バイオマスの燃焼によるCO₂排出量をゼロとするにあたっては、事業の実施後、それらバイオマス資源を調達する森林における生体バイオマス炭素ストック量が中長期的に復元または増加することを前提とし、これを伴わない場合には、地球温暖化対策としての意義の再検討を求めることとした。

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4. 食料・水資源・生態系と調和する気候変動対策とは

IPCC土地関係特別報告書によると、陸域の昇温速度は海上より大きく、2011年~2020年の間に産業革命以前に比べ1.59℃上昇し、人間活動は極端な高温、大雨、干ばつの頻度に既に影響を及ぼしている。

世界の森林などの陸域は、人為起源のCO₂排出量の約29%を正味で吸収している(図9)。エネルギーの脱炭素化を極限まで追求したとしても、食料生産等による排出削減には限界がある。そのために、人為的な吸収源をつくらなければならない。気候変動の影響による、森林火災や永久凍土溶解によるGHG排出増加などもあり得るため、現存する原生林や二次林は保全しなければならない。また森林は伐採などの撹乱を受けた後に、考えられていたよりも長くCO₂を吸収し続けることがわかってきた。図9は北米の例だが、数百年たっても吸収し続けている【*21】。土地利用変化による排出を、吸収に転換しなければならない。人為吸収源を拡大しなければならないが、大規模な新規植林やバイオ燃料作物の増産は、他の対策と競合する。他の方法としては、木材建築への長期炭素貯蔵やバイオ炭貯蔵などがある。

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図9:地球全体の人為および自然起源のCO2の吸収・排出量の長期変化

図9:地球全体の人為および自然起源のCO₂の吸収・排出量の長期変化

出所:Global Carbon Project, Carbon Budget 2021 概要に、三枝信子加筆

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図10:攪乱からの回復に伴うCO2収支

図10:攪乱からの回復に伴うCO₂収支

出所:Curtis & Gough (2018) New Phytologist

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コラム③ バイオマスに関する日韓NGO声明

2021年10月21日、バイオマスエネルギーの大量使用問題に関して世界中の環境団体が立ち上がる「ビッグ・バイオマス国際行動デー」が開催された【*1】。

韓国は300万トン以上の木質ペレットを輸入しているが、持続可能性基準はなく、韓国産においてもほとんどが皆伐された木材で木質ペレットがつくられている。この日、日韓の環境団体が国際メディアブリーフィングを開き、日韓の首脳に、全ての再生可能エネルギーがパリ協定の1.5度目標と整合し、そのライフサイクルを通じて、短期的な排出削減に貢献することを義務付けることなど要請する「バイオマスに関する日韓NGO声明」を発表した【*2】。

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