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トピックス

2. 輸入バイオマスの問題

1. 輸入バイオマスの概要

一般木材バイオマス発電の稼働が相次ぐなか、木質ペレットやアブラヤシ核殻(PKS)の輸入量はさらに増加した。木質ペレットは2023年の581万トンから2024年には638万トンへと約1割増加し、PKSを追い越した。PKSは587万トンから600万トンへ微増であった。PKSは2024年4月からFIT制度においては持続可能性認証の取得が義務付けられた。2023年に急増した米国からのペレット輸入は、エンビバ社の破綻の影響で減少し、一方マレーシア、インドネシアからの木質ペレット輸入がそれぞれ40万トン、31万トンへと増加した。木質ペレットとPKSの輸入量の合計は、1,238万トンとなる(図4)。CIF平均価格はPKSが23.2円/kg、木質ペレットが30.0円/kgと高止まりしたままである。

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図4:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移

図4:PKSおよび木質ペレット輸入量の推移

※木質ペレットの2023年以前では、マレーシア、インドネシアは「その他」に含まれている。

出所:On-site Report No.643、No.644ほかよりNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成

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2. 韓国政府、バイオマス発電政策を転換

2024年12月、韓国政府はバイオマス発電に対する公的支援に関し、「再生可能エネルギー証書」(REC)として知られる間接的な補助金を、ほとんどのバイオマスのカテゴリーで段階的に廃止する、という大きな改革を発表した【*7】

韓国では、「再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(RPS)」が2012年に導入された。RPSとは、大手の化石火力発電事業者が、エネルギーの一定割合(2024年:13.5%、2030年まで:25%)を再エネにすることを義務付ける制度で、目標達成のために自ら再エネ発電所を建設・運転するか、他の発電事業者から「再生可能エネルギー証書」(REC)の形で再エネを買うことができる。

一方、再生可能エネルギー事業者は、発電した電力1MWhごとに、再生可能エネルギー証書(REC)を発行できる。RECは市場で販売することができ、その価格は需要と供給によって決定される。事業者はRECの販売により、再生可能エネルギー事業の収益性を確保する。RECの買い取りは、消費者の電気代から賄われている。

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2024年12月の政策変更では、まず、2025年以降の新規のバイオマス発電所に対して、RECの発行が停止される。既に建設中または事業許可を得て計画中の発電所は、2025年に国営のバイオマス専焼発電所に対するREC加重が変更前の3分の1に引き下げ、2026年以降は、民営の専焼発電所のREC加重も段階的に削減される。石炭バイオマス混焼については、国営発電所へのREC発行は2025年に停止、民営の混焼発電所のRECは2026年以降、段階的に廃止。段階的削減・廃止の期間は、発電所の運転年数に連動する。ほとんどの民営専焼発電所は運転開始から5~6年しか経過していないため、2040年代まで高いREC加重を受け続ける見込みである。また、民営混焼発電所もほとんどが運転開始から10~11年であるため、段階的廃止が完了するには10年以上かかる。

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韓国・通商産業エネルギー省によると、この政策変更は、1)バイオマスは非常に高コストであり、発電コストも高い 2)バイオマスの過剰な支援により、バイオマス発電向けに供給が偏り、木材業界内(家具や製紙など)の原料の競合が激しくなっている という理由で行われたとのことである。

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3. エンビバ社の破綻と東南アジアへの移行

世界最大手の木質ペレット製造会社である米国のエンビバ社は2024年3月、製造コストの上昇などから資金繰りが悪化し、連邦破産法11条を申請した【*8】。その後、2025年1月に再建計画が合意された。  エンビバ社は2025年における木質ペレット供給の長期契約を日本企業と350万t以上締結していた(図5)。再建にあたり木質ペレット購入者に新たな価格での再契約を求めたが、円安もありその価格では日本のFIT制度での事業継続は困難だと見られる。2024年12月運用を停止した鈴川エネルギーセンターは、エンビバ社から年間34万tの木質ペレットを購入してきたが、こうした事情から鈴川エネルギーセンターは運用を停止したと推測される(トピックス1)

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図5:2025年 エンビバ社の長期供給契約

図5:2025年 エンビバ社の長期供給契約【*9】

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エンビバ社に代わる供給先として、従来から大量に輸入されてきたベトナムに加え、インドネシア、マレーシアなど東南アジアからの木質ペレット輸入が急増している(コラム②参照)。ただし、東南アジア産ペレットには持続可能性の問題のほか、北米との樹種が異なることなどによる木質ペレットの品質に違いがあることが指摘されており、対応に苦慮する事業者もいる模様である。

米国やカナダで木質ペレット工場を運営しているドラックス社は、2025年5月、環境保護活動家によるバイオマス発電への抗議の後、年次総会を断念した【*10】

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ドラックス社が米国で所有する木質ペレット工場において11,000回以上環境規制違反が指摘されたように、従来から北米の木質ペレット工場における大気汚染の問題が懸念されてきた【*11】。ミシシッピ州グロスターの木質ペレット工場からの騒音暴露評価を行う調査が実施され、騒音レベルは著しく高いという結果が発表された【*12】

米国カルフォルニア州で木質ペレット工場建設を計画していたGSNR社は、計画を事実上キャンセルした。同州環境品質法プロセスにおいて、反対するコメントが5万件に達していた【*13】

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2025年初頭、全国のパタゴニア国内直営店において、「原生林を燃やす私たちの電気」が展示され、5店舗ではトークイベントも開催され【*14】、動画「【カナダの森林学者が語る】原生林を燃やす私たちの電気」がインターネット上で公開された【*15】。また、経済産業大臣に対し、約2万人の署名が提出された。

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4. 木質ペレット等による火災・爆発事故とその後の対応

前年に引き続き、2024年も木質ペレットに関わる火災・爆発事故が相次いだ【*16】

2024年7月、北海道の石狩新港バイオマスにおいて、木質ペレット受入設備で粉じん爆発と推定される爆発・火災が発生し、作業員一名が火傷による重傷を負った【*17】。子会社が同発電所を運営する奥村組は、運転停止による営業外費用などにより、2024年4月~9月の連結決算で赤字となった【*18】

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2024年10月、市原八幡埠頭バイオマス発電所で、火災が発生した。ボイラーから出た火が燃料を投入するコンベア上の木質ペレットに燃え移ったと見られる【*19】。2025年2月、山形バイオマスエネルギーが山形地裁より特別清算命令を受けた【*20】。2019年度稼働に向けて設備投資を行っていたが、発電プラント引渡し前の試験運転中に爆発事故が発生していた。2025年3月、東北電力は新潟県聖籠町の新潟東港バイオマス発電所で火災が発生したと発表した【*21】。燃料の燃え殻などを一時的に保管するベットアッシュ搬送設備から火災が発生し、間もなく鎮火した。

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2024年1月に爆発・火災事故が発生した武豊火力発電所を運営するJERAは、2025年1月以降、夏季・冬季といった高需要期において石炭のみの稼働を行うこと、バイオマス混焼は再発防止策を行い、2026年度末ごろの普及を目指すと発表した【*22】

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写真: 武豊火力バイオマス発電所

写真: 爆発・火災事故が発生した武豊火力バイオマス発電所。
建物右上に爆発による煤が見られる。

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また、爆発を伴う火災などで2023年から運転を停止していた米子バイオマス発電所は、運営会社が2025年6月に開いた地域協議会で、今後6カ月程度をめどに事業廃止届を国に提出することを明らかにした。中部電力の担当者は、事業の廃止は設備の復旧や安全対策に関わる工事費に加え、木質ペレットの価格高騰など採算性が見通せない状況になっていることが大きいとしている【*23】

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バイオマス発電所のバイオマス燃料を受入れ・搬送・貯蔵する設備等における事故が相次いで発生している現状を踏まえ、経済産業省はこれら設備についても新たに「破損事故」の報告対象などの対策をとることとした【*24】

消防庁は、木質ペレット等貯蔵施設における保安対策の調査報告書【*25】を2025年3月に公表した。

火力原子力発電技術協会は、木質バイオマス発電設備の安全対策を強化するため、2025年度内にまとめる計画で防火、防爆の指針作成を開始した【*26】

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2024年5月、宮城県石巻市の石巻港に係留中の貨物船のPKS倉庫内で、作業中の2人が酸欠で倒れ、そのうちの一人が死亡した事故に関し、国土交通省は事故調査報告書を公表した【*27】。PKSや木質ペレットなどのバイオマス燃料は、保管中に低酸素状態になることがある。バイオマス燃料の安全な取り扱いのための迅速かつ適切な対応が求められる。

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コラム② インドネシア産木質ペレットの輸入が急増
~懸念される熱帯林伐採の加速

急増するインドネシア産ペレットの輸入

日本へのインドネシア産木質ペレット輸入が急増している。2021年には3.8万トン(日本の木質ペレット総輸入量の1%)だったのが、2024年には31.5万トン(同5%)に増加した(林野庁「木材輸入実績」より)。

以下、現地NGO Auriga Nusantaraらによるレポートや同団体代表ティマー・マヌルン氏の日本での講演内容を元に、同国のペレット生産の状況をまとめる【*】。

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インドネシアで急拡大したペレット産業~日韓の需要が引き金に

インドネシアの森林減少率は、2017年から2020年まで減少していたが2021年に上昇に転じた。その要因の一つが、近年急速に拡大している「エネルギー用産業植林(HTE)」コンセッション(伐採許可)である。2020年以前は、インドネシア政府の輸出データには、木質ペレットの記録が一切なかった。同国のペレット産業やバイオマス石炭混焼義務化の政策は、日韓のペレット需要に刺激される形で始まったものである。2021~2023年の間、同国のペレットの99%が日本(約4割)と韓国(約6割)に輸出されている。

現在、インドネシア国内には120万haを超えるHTEがある。その中の総森林被覆面積は70万ha以上、でその内、40万ha余りが手付かずの熱帯林である。HTEの中には、少なくとも14の「生物多様性重要地域」がある。 HTEの面積が最も大きいのがカリマンタン島だが、その全てがオランウータンの生息地と重なっている。また、カリマンタン島の特長としては泥炭が広がっていることである。伐採と産業植林のために泥炭地の水を抜くと、泥炭火災のリスクが高まり、一度火災が発生すれば鎮火が困難になる。

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ゴロンタロ州(スラウェシ島北部)の事例~ペレット生産のために天然林が切られていることを確認

現在、インドネシアで最もペレット輸出量が多いのがスラウェシ島で、総輸出量の50%余りを占める。スラウェシ島は鳥類や霊長類などの貴重な固有種の宝庫である。日本のバイオマス発電事業者や商社がこうした地域のペレットを調達することは、貴重な種の生息地を奪い、絶滅に加担することを意味する。

ゴロンタロ州には以下の2つのペレット工場があるが、Auriga Nusantaraの現地視察、HTEコンセッションに関する公開情報、衛星画像などから、天然林の丸太がペレットにされていることが分かっている。写真からは、太さや色が均一でないことから、植林木ではなく天然林由来であることが分かる。

  • 1. Biomasa Jaya Abadi (BJA) :インドネシアの最大手の石炭会社と日本の商社が出資して、2020年に操業を開始。
  • 2. Gorontalo Panel Lestari (GPL):同国の大手アブラヤシ農園企業が所有。2025年3月に操業開始。
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写真: インドネシア ゴロンタロ州におけるバイオマス開発による森林破壊

写真: インドネシア ゴロンタロ州におけるバイオマス開発による森林破壊

(写真提供: Auriga Nusantara)

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日本政府・企業・金融機関に求められる緊急の行動

インドネシアでは残存する天然林の50%以上に法的な保護がなく、そこでは伐採や植林地への転換は合法的に行われる。したがって、「合法か否か」に基づいてペレットの持続可能性を判断することはできない。

現時点では、多くのHTEコンセッションではまだペレット工場ができておらず、本格的な森林伐採が始まっていない。日本のバイヤーや金融機関には負の影響を回避する責任があり、熱帯林や自然林の伐採に由来するペレットを排除する方針を策定すべきである。また、日本政府は、こうした森林破壊に由来するバイオマスへの補助金を早急に停止する必要がある。そうすれば、最悪の事態は回避できるだろう。

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<地球・人間環境フォーラム 鈴嶋 克太>

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コラム③ 大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」
投融資方針を環境団体が比較・評価

2025年6月、日本の環境NGO6団体は日本の大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」に関する2024~25年の投融資方針を比較・評価した結果を公表した。バイオマス発電事業への支援条件を厳格化する動きが広がる一方で、方針の適用が新規案件に限定されていること、GHG(温室効果ガス)排出量においてバイオマスの燃焼由来のCO₂を考慮に入れていないことなど、方針の内容には多くの課題が見られた。

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<評価結果>

木質バイオマス発電は、経済産業省の「再生可能エネルギー固定価格買取」(FIT)制度で「カーボンニュートラルな再生可能エネルギー」とされ、消費者負担の賦課金を原資に市場よりも高い価格で買い取られている。一方で、CO₂排出量の多さ、エネルギー効率の悪さ、生産地での森林減少・劣化や地域住民の健康被害など、国内外の研究者やNGOから多様な環境・社会問題が指摘されている。

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木質バイオマス発電が政府による支援の対象であるにもかかわらず、金融機関がその課題を認識し、投融資に当たってリスク評価を行う姿勢を示し始めたと言える。

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2024年春、3メガ銀行は自社のサステナビリティ方針に、木質バイオマス発電に関する項目を加えている。その後、同年12月に三井住友トラストグループも追随し、2025年4月には三菱UFJフィナンシャルグループが方針を改訂した。この間、大手生命保険会社や損害保険会社の一部でも方針の策定が見られている。

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本評価では、2023年に環境NGOが金融機関に要請した項目を用い、大手の金融機関11社(銀行4社、生保・損保7社)の方針を比較した。

評価まとめ表

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