違法伐採対策とバイオマス利用

(1)違法伐採木材対策が始動

コラム◆グリーン購入法基本方針の改定とその影響
〜森林の保全という観点から〜

近年、違法伐採が森林に対する脅威として国際的に問題となってきている。違法伐採の規模については、世界で流通する木材の10%に相当すると言われ、木材生産量に占める違法伐採材の割合は、極東ロシア50%、インドネシア73%などとされている。日本の輸入木材の相当割合は違法伐採木材であることを疑った方がよい。

違法伐採のタイプは、保護されている森林や樹種の伐採、許可量を超えた伐採など様々である。また、合法であっても、原生林の皆伐など破壊的な伐採も多くあるため、「持続可能な森林経営」ということが国際的なキーワードとされてきている。合法性は、持続可能性を達成するための第1歩ともいえる。

さて、グリーン購入法(「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」)において、2006年2月の閣議決定により、政府調達による木材製品や紙製品は、合法性が確認されたものであることが必要であり、また持続可能性を配慮することが盛り込まれた。他の物品をみても原材料の生産現場にまで遡った視点がなかったことを考えると画期的な見直しであろう。フェアウッド・キャンペーン*など多くのNGOからの働きかけの成果とも言える。

しかし、もちろん企業にとって、木材の合法性・持続可能性を、生産現場に遡って確認することには多くの困難が伴う。特に今までは商社まかせにしていた海外からの原料の確認が課題である。紙分野においては、これまでにもリコー、富士ゼロックス、日本製紙などが、持続可能性などに配慮した調達方針を策定してきたが、木材においては今後の取り組みが待たれる。

今回のグリーン購入法においては、政府調達に関わる企業はもちろん、その企業へ木材や紙を供給している企業、さらにその上流側の企業も取り組みが求められている上、CSR(企業の社会的責任)を看板に掲げる多くの企業の木材・紙調達方針にも影響を与えた。そしてそれがよい効果を生み出してきている。

さらに、最も大きな効果としては、インドネシアやロシアなどの木材の生産国側の取り組みが真剣なものとなってきたことであろう。まじめに持続可能な森林経営を目指している生産側企業のビジネスチャンスが拡大したこと、また、これを機に「森林認証の取得を考えよう」としている企業が出てきていることも見逃せない点である。今後は、木材調達に関する情報公開やモニタリングを市民社会主体で積極的に行っていくとともに、日本の経験を世界に発信し、合法性・持続可能性のグローバル・スタンダード確立に貢献することが重要となってこよう。

<(財)地球・人間環境フォーラム主任研究員 満田夏花>

パルプ工場に運び込まれる木材

パルプ工場に運び込まれる木材(インドネシア・スマトラ)

*フェアウッド・キャンペーンHP http://www.fairwood.jp/

(2)RPS法義務量引き上げとその影響

(1)のコラムにあるように、違法伐採木材対策の取り組みが始まった。その一方で下記のように、RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)の義務量引上げがバイオマス輸入を促しかねない状況となっている。違法伐採木材の利用を防ぐため、少なくとも原料の合法性の確認を義務付ける必要があるのではないかと考えられる。

コラム◆RPS法における木質バイオマス利用の現況と
義務量引き上げによる影響

RPS法は、小売電気事業者に、再生可能エネルギーから発電される電気を一定量以上利用することを義務付ける制度である。電力分野における再生可能エネルギーの更なる導入拡大を図ることを目的として、2003年度から施行されている。義務量は、向こう8年の目標数値を4年ごとに見直すことになっており、今年はその見直しの年に当たる。今年度中に平成19〜26年度(2014年度)の目標数値を設定する予定となっている。現在、「総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会RPS法小委員会」において集中的に審議されているところである。

※下線以外は推計値

RPS法による電力供給量内訳の推移

グラフ(RPS法による電力供給量内訳の推移)

資料:資源エネルギー庁(表・グラフとも)

これまで、RPS法による電力供給では、約半分がバイオマスによるものとなっており、大きく寄与している。バイオマスの内訳で最も大きな割合を占めるのは、一般廃棄物の約8割となっているが、今後はあまり増加が見込めない。木質系バイオマス(製材くず、間伐材、建設廃材等)を燃料とした電気の供給量は、まだ多くはないものの、平成15年度から平成16年度にかけて約2倍に増加し、平成16年度はバイオマスを燃料とした電気供給量のうち約5%を占めるようになってきている。

RPS法の2014年度に向けた義務量は増やされる見通しであるが、これは相対的に発電原価の低い木質バイオマス発電をより促進させることになるであろう。石炭との混焼による大規模火力発電所やセメント焼成炉、木くず発電を行う独立発電事業者が既に登場し、周辺にある低価格の木質バイオマスが逼迫する地域が現れている。木くずを原料とするパーティクルボードなどの製造業者は、原材料の逼迫により事業縮小を迫られる状況になりつつある。また、既存電力会社は、石炭との混焼を強力に進めていくことになろうが、近隣の低コスト資源が収集困難になる結果、海外からの木質チップやペレットの輸入に頼らざるを得なくなる。これでは、当初目的としていたエネルギーの安全保障や新規産業・雇用創出という意味が薄れていくことになる。制度設計は単純にはいかないが、固定買取価格制度の併設を模索すると同時に、国産森林資源の高付加価値−低コスト化を目指した木材のカスケード利用産業の創出を急ぐ必要があると考える。

<株式会社 森のエネルギー研究所 代表取締役 大場龍夫>