国際的動向

国際的にも、バイオ燃料をめぐる動きがとりわけ顕著であった。

米国では、2005年8月に輸送用燃料へのバイオ燃料使用を義務付ける「2005年エネルギー政策法」が成立。2006年に40億ガロン(約1,500万kl)、2012年に75億ガロン(約2,800kl)の再生可能燃料の利用が義務付けられたが、実際には、2006年の生産量は50億ガロンに達したと見られ、2008年末には100億ガロンの生産が可能になる見込みと加速している。米国は、ブラジルを抜いて世界最大のエタノール生産国となった模様だが、飼料用トウモロコシを原料とするエタノールは、投入エネルギーに対して生産されたエタノールの熱量が1.3程度と見られており、農業政策としての意味合いが強いと見られている。

またカナダでは、セルロース系農林業廃棄物を原料とするバイオオイル(BTL)製造プラントが稼動し始めた。(ドイツでも同様の施設が商業運転を開始している。)  EUでも、2005年のバイオマス行動計画の策定など、精力的な取り組みが行われた(コラム参照)。もっとも、2005年末に輸送用燃料の2%にバイオ燃料等を導入するという目標は、EU全体の実績が0.8%とほとんどの加盟国では達成できていないように、これまで設定してきた野心的な目標は必ずしも実現してはいない。

韓国では、2006年7月にバイオディーゼルを0.5%混合した軽油販売が始まったが、充分な準備なしに実施したため、混乱が生じている模様である。

中国や東南アジアでも、バイオエタノール、バイオディーゼルの積極的な導入が行われている。マレーシア政府は、パームオイルを生産する政府関連企業3社を統合し、世界最大のパームオイル会社を設立する戦略を打ち出した。また、インド、インドネシア、マレーシアなどではヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)、ブラジルではトウゴマなど、食用に適さないが生産性が高い油脂植物にも注目が集まり、生産量が拡大している。

インドネシアで栽培されているヤトロファ

インドネシアで栽培されているヤトロファ(撮影:松村幸彦)

コラム◆EUのバイオマス政策と実情

世界で最もラディカルなバイオマス政策を進めるEUのこれまでの経過を振り返ってみる。

1997年10月に調印されたEUの新たな憲法といわれるアムステルダム条約において、持続可能な発展原則の追求がEUの目標として規定され、その翌月、「再生可能エネルギー白書」が発表された。この白書では、再生可能エネルギーの比率を1996年の6%弱から2010年に12%へ増加させる目標が打ち立てられ、それにより53万人の雇用を見込んでいる。

2000年に発表された「エネルギー供給の安全保障戦略(グリーンペーパー)」では、2020年までに輸送用燃料の20%を石油代替燃料に(8%をバイオ燃料、10%を天然ガス)する目標が掲げられ、さらに「運輸部門でのバイオ燃料あるいは他の再生可能燃料の利用を促進する欧州議会・理事会指令」で、加盟国が国内市場で販売される自動車燃料に占めるバイオ燃料の割合を2005年末に2%、2010年末までに5.75%(エネルギー基準)とするという目標を定めた。また、2001年の「再生可能エネルギー促進のためのEU指針」では、電力における再生可能エネルギーの割合を13.9%(1997年)から22%(2010年)に増加させる目標を定めた。

さらに2005年12月に「バイオマス分野での行動計画」を発表、2010年までにバイオマスの占める割合を2倍にするという目標が掲げられた。この目標が達成されれば、石油輸入が8%減少し、CO2排出量が2億900万トン減少し、農林業で30万人の雇用が新規に創出されると見込まれている。この行動計画では、暖房、発電そして輸送にこうしたバイオマスエネルギーを使うとして、法制度上の施策、バイオマスを暖房に使うにあたっての規格、税制あるいはインセンティブ導入などが盛り込まれ、直接経費は90億ユーロ(約1兆3500円)と見積もられている。また、2006年2月には「バイオ燃料のためのEU戦略」を発表、農産物からのバイオ燃料の生産奨励に乗り出している。

2005年のEUエネルギー需要のうちバイオマスは、約4%を占めている。家庭の暖房や地域熱供給に使われる薪炭材・木屑、有機性廃棄物からのメタンガス利用が最も多く、バイオエタノールやバイオディーゼルはバイオマス利用全体の3%程度でしかない。バイオディーゼルはナタネ、ヒマワリなどから、バイオエタノールは小麦やテンサイ、廃ワインなどからつくられるが、最大の課題は生産コストである。化石燃料とのコストの差を埋めるため、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどで免税処置が採られているが、実際のところバイオディーゼルは石油価格が1バレル60ユーロ(約80ドル)を越えなければ、バイオエタノールは同じく90ユーロ(約120ドル)を越えなければ採算が取れないという研究結果も出ている*2。

2005年にEUで生産されたバイオ燃料は390万トンになり、前年比で65.8%増加した。その8割以上がバイオディーゼルである。バイオエタノールも1年間で7割増加している。しかし、バイオ燃料への免税を躊躇する加盟国があり、今のままでは2010年に5.75%の目標は多くの国が達成できないと見られている。

薪ストーブ

EUのバイオマス利用で最も多い用途は家庭用暖房である(薪ストーブ)

* EUのバイオマス利用の現況については、NEDO海外レポート983等を参照のこと http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/983/index.html

*2 「日本のバイオマス利用シンポジウム2006」におけるクリスチャン・ルノー氏(A.N.D-INTERNATIONAL上級研究員)の講演による

コラム◆中国農村部で広がるバイオガス利用

高い経済成長を続ける中国。2008年にオリンピック開催を控えた北京では、都市の再開発が急ピッチで進み、大きな道路の両側に巨大な高層ビルが居並ぶ光景には圧倒される。しかし、繁栄を享受する都市部に対して、農村部の貧しさは、私たちの想像を超えるものがある。

そんな農村部で急速に増えつつあるものがある。農家におけるバイオガス利用だ。容量6〜10立方メートルのコンクリート製発酵タンクを農家の敷地内に埋設、家畜や家族の排泄物を投入し、嫌気性発酵によって生まれたメタン主体のバイオガスを燃料として利用し、残りを肥料として活用する。現在、中国全土で1,800万基が設置されるまでになった。

きっかけは農業の立て直しだった。中国政府は革命以後、農業生産性を上げるために、機械化や農薬、化学肥料の投入によって大規模農業を追求した。その結果、地力は衰え生産性は低下し、作れば作るほど赤字を出すことになる。1970年代後半に至り、政府は、農業と養殖業(家畜や魚)を組み合わせた革命以前の伝統農法の見直しに着手し、「生態農業」として体系づけた。そして、家畜の排泄物を適正に処理し、有効に使うためバイオガス利用技術が取り入れられることになる。1980年には、四川省成都市に中国沼気学会(「沼気」とはバイオガスの意)が設立され、以来20年におよぶ研究の中で、家庭での利用システムが構築されていった。

バイオガスの利用により、農民は衛生環境の改善、エネルギーの自給、有機肥料の利用などさまざまなメリットを得ることができる。発酵タンクの設置費用は1基2,000元(32,000円)と、農民の平均年収に匹敵するが、光熱費や肥料代の節減などにより可処分所得が増えることで、2〜3年で設置費用を回収することができる。こうして急速にバイオガス利用が拡大してきた。

中国西南部に位置する雲南省は、多様な自然環境を持ち、25の少数民族が独自の文化を営み、そのエキゾチックな魅力から国内外の観光客を引きつけている。ここで活動している環境NGO「雲南エコネットワーク」(代表:陳永松氏)はバイオガスの評価に関する国際会議を主催するなど、地域の持続可能な発展に向けた活動を展開している。私たちは、同ネットワークと連携し、農村部におけるバイオガス利用を支援するプロジェクトを立ち上げ、昨秋から省都昆明近郊の村で発酵タンクの設置を始めた。バイオガス利用の推進は、化石燃料から転換することでCO2の排出削減になり、地球温暖化対策としても有望である。私たちは、バイオガス基金の設立や現地訪問エコツアーの開催などを通じて、バイオガスの可能性を伝えていきたいと考えている。

<自然エネルギー推進市民フォーラム理事 山崎求博>

バイオガスタンク 模式図

バイオガスタンク 模式図

埋設された発酵タンク

埋設された発酵タンク

コラム◆ベトナムのバイオマス事情

近年、地球温暖化問題、持続可能社会の形成などの観点からバイオマスが大変注目を浴びることが多くなってきた。日本も多くのバイオマスを有するが、東南アジアは温暖・熱帯地域であり、世界の3割強のバイオマスが存在している。その中で、BRICsに次ぐ11カ国のなかで成長著しく、勤勉な国民性を持ち、タイなどについでバイオマス産業のこれからの大きな成長が望めそうなベトナムの状況に触れてみる。石炭、石油も産出し、南北に細長く海に面しているが、何よりもメコン河の旅の終着地で広大なデルタ地帯を有し、水資源も豊富な国である。

ベトナムのバイオマスの利用現状は、国民の7割は木材、稲藁などをはじめとしたバイオマスの90%を調理用燃料として使い、2%を肥料、0.2%をマッシュルーム生産用としている。

主なバイオマスと言えば、デルタ地帯での米作は大変有名であり、米の輸出では世界2、3位を争う国である。デルタ地帯は米作の2、3毛作が行われ、1haあたり4.3tの収穫をあげている。全土での米の作付面積は760万haであり、生産高は約3,400万tである。ここで籾殻、藁、ぬかなどの利用があまり進んでいないのは残念である。以前、大量の籾殻に目をつけ、オーストラリアが開発費を負担し、ロアン省で10t/日規模の籾殻ガス化発電実証試験が行われたが、維持管理などを含めコスト高で、そのままとなった。今後は簡易な籾殻ガス化発電(50kW程度)として、日数トン規模で700万円程度のものをどうかと、筆者らは提案している。

また、東京大学迫田教授、ホーチミン市工科大タン教授らが籾殻、稲藁などからエタノールを回収し、バイクの燃料の一助にとライスリファイナリーの一環として実証試験が始まっている。砂糖の生産も多く、全土で40ほどの工場があるが、エタノール製造は聞かない。老朽化していることから改修時にCDM(クリーン開発メカニズム)事業も考えバガス(全国で約400万t)利用の高度化が考えられる。

ベトナムの水田

ベトナムの水田

糞尿と廃棄物は十分エネルギー代替、回収が行えるが、糞尿のメタン化もごく一部で始まったばかりである。これはオランダ、ドイツの無償、有償の援助によるものである。農家で人間と飼育している数頭の牛、豚などの糞尿を地下に埋め込んだコンクリート槽内で発酵させ、パイプで台所ガスコンロへ引いている。アンモニア臭気も少なく家人は得意げであり、導入は大変裕福な農家のステータスの様に感じられた。牛は約700万頭、豚は約2,100万頭、鳥インフルエンザにもかかわらず、鶏は21,000万羽と聞いた。

今後都市部では市場や家庭系廃棄物中の有機物の大型メタン化の検討もなされ始めたと聞く。将来的にはモバイルフォン効果を考え、下水汚泥を併せた大型メタン化施設や廃棄物のガス化で燃料油、ガス回収、発電、水素回収、DME(ジメチルエーテル)などまでソフトと一緒の総合的なバイオマスコンプレックス型システムの検討も行われると良いと考える。ちなみに、ハノイ市は2,100t/日、ホーチミン市は4,500t/日のゴミが排出され、埋め立てられている。

上記のほか、森林970万haからの木材関係、水産廃棄物、コーヒー滓、南部泥炭地帯のバイオマス活用などがある。近い将来、ベトナム側の要望と日本のソフト・ハードを摺り合せ、バイオマス・アジアの一角を共同で築く作業が必要と感ずる。

<横浜市立大学客員教授 竹林征雄>

ベトナム 州別バイオマス生産高上位5地域分布

ベトナム 州別バイオマス生産高上位10地域 2003(推定)

(単位:t)

メコンデルタ

メコンデルタ

収穫

収穫

小規模精米機

小規模精米機