マテリアル利用の進展

バイオマス利用の大きな目的は、石油など化石資源の利用を抑えることである。その意味では、ガソリンなどの燃料に次いで化石資源(特に石油)の用途となっているのが、プラスチック類であり、日本で生産されるプラスチックはここ最近では、約1500万kl程度の原油や輸入ナフサから生産されている。エタノールなどの液体燃料と並んで生活や産業に密着した分野であり、バイオマス普及啓発の大きなツールとなると同時に、その利用の仕方次第では、(市場規模が大きいだけに)大きな問題を起こす可能性のある分野である。

(1)バイオマス・プラスチック普及啓発事業

NPO法人バイオマス産業社会ネットワークでは、バイオマス・プラスチックの普及啓発と適切な利用方法の検討を行うため、2005年度からEEP(鶏卵パック適正利用推進)協議会と協力して、一般流通における鶏卵パックや野菜パック・袋などのバイオマス・プラスチック製品の提供事業を行ってきた(農水省・千葉県による補助事業)。これはバイオマス利用の実証実験が往々にして従来のマーケットとは切り離されたところで行われるケースが多く、市場が要求するコストや、性能などを無視した研究開発や事業推進が進行することがしばしばであるため、大手スーパーチェーンの協力を得て一般流通における普及啓発と適切な利用方法の検討を行ったものである。

バイオマスマテリアルの大量使用については、常にごみの減量や再使用を阻害するのではないかという意見がよく聞かれる。これらは、当然の指摘ではあるが、現に大量の化石資源由来プラスチックが流通している現状では、バイオマテリアルへの代替を進めることも一定の効果があると考えられる。

一連の事業の中で、バイオマス・プラスチックの普及は着実に進んでおり、今後本格的な導入も視野に入ってきた。これからは、資源確保における環境問題チェックやごみの減量や再使用促進などと連動した動きが求められることになろう。

<バイオマス産業社会ネットワーク副理事長 岡田久典>

EEP協議会ポスター

EEP協議会ポスター

(2)日本におけるその他のマテリアル利用事例

1)古古米を原料とするバイオマス・プラスチック

2006年9月、バイオマス産業社会ネットワークは「日本のバイオマス利用を考える」シンポジウムを東京都、岐阜市、札幌市の3カ所で開催し、日本企業の実践例も紹介した*1。

新潟県上越市にあるアグリフューチャー・じょうえつ(株)の米でつくるプラスチックは、非常に興味深い事例であろう。

日本には、WTOの貿易協定によるミニマムアクセスによって、在庫米だけでも170万tある。さらに毎年、災害対策の備蓄米の廃棄処理される米も何万tもあり、同社は、これらをバイオマス・プラスチックの原料として商品化している。当初は、食べるお米をプラスチック原料にするのはもったいないと言われたが、廃棄される古古米の有効利用なので、徐々に支持を得てきているという。現在では、食品トレー、容器、袋など様々な形で商品化されている。

2)月桃を商品化

日本月桃(株)では、沖縄県のショウガ科の多年草「月桃」(げっとう)を15年ほど前から商品化している。茎からは、繊維が取れるため壁紙、葉からの精油は、防虫・抗菌用品、精油をとった残りの蒸留水を化粧水原料、アロマ用品、葉の粉末を食品、種子を月桃茶の原料という形で、利用できるところから商品化している。15年間やってきて、他の企業も月桃事業に参入してきたが、主に茎と葉の両方をバランスよく販売できるビジネスモデルが構築できなかったために、撤退したところが多いという。そんな中でこれまで継続できているのは、各部位ごとの収穫量にあわせて市場を開拓していったことだという。月桃の特性を生かしたバイオマスマテリアルの理想的な取り組みだといえる。

3)樹皮製の木質断熱材

秋田県能代市の西方設計からは、秋田杉の樹皮からつくる木質断熱材の取り組みが報告された。樹皮断熱材をつくる原理は、昔から工業化されているインシュレーションボード(軽量木質繊維板)と同じであり、特に新しい技術ではないという。製造しているアキモクボードでは、バイオマス発電も取り入れ、マテリアルとエネルギーの活用の先駆的な例であった。現在の断熱材は、グラスウール、ロックウールのガラスや鉱物系の素材が主流であるが、今後はこの分野にも自然素材の製品が普及していく見込みだという。それは樹皮断熱材のもつ調湿機能が建築設計において重要な要素であるからだ。ただし、調湿機能のある家にするには、それなりの設計技術と建築物理学の普及が鍵である。

(3)フランス・ヘンプ(麻)産業視察ツアーの実施など

2005年の「日本のバイオマス利用シンポジウム」海外ゲストであったピエール・ボロック氏のコーディネートで、フランス・ヘンプ(麻)産業視察ツアーが2006年9月に実施された。フランスはEUで最大のヘンプ生産地であり、種子開発会社、一次加工会社、建築資材メーカー、天然繊維強化樹脂会社などを訪問した。訪問した会社が連携して、従来の紙パルプの需要から農業マルチ材、石灰混合の建材、強化繊維としてのプラスチック原料への利用用途の開拓に力を入れている段階であった。畑から工業製品をつくるには、供給体制のネットワーク化が重要であることがよく理解できた*2。

また、ヘンプのあらゆる産業分野を網羅した『ヘンプ読本』(築地書館)が8月に発売された。また11月末に京都工芸繊維大学にて、ヘンプをテーマにした農学、薬学、工学、民俗学などの各分野が集まる会合が初めて開かれ、地域興しの取り組みの進展が伺われた。

<バイオマス産業社会ネットワーク理事 赤星栄志>