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トピックス 再生可能エネルギー電力買取制度(FIT)の開始

3 熱利用とのバランスのとれた推進を

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1. 熱利用等に関する取り組み

エネルギー、あるいは再生可能エネルギー=電力、という先入観のせいか、日本においては、熱利用は無視されることが多かった。2012年の再生可能エネルギー政策においても、FITに代表される電力に関心が集中した。

だが、少しずつ、熱利用に係る取り組みも進みつつある。

バイオマス利用において緊急の課題として挙げられていた、品質規格や安全基準においても、前進があった。環境省は2012年3月、「木質バイオマスストーブ環境ガイドライン」を公表した【20】。ただし日本ではまだ、木質ペレットストーブの安全基準などを定めた法令がなく、早急な整備が求められる。

燃料用チップの規格についても、2010年に全国木材資源リサイクル協会連合会が建築廃材などを原料とする木質リサイクルチップの品質規格【21】を制定し、2012年、全国木質チップ工業連合会が、木質チップ品質規格を策定した【22】。岩手大学の沢辺攻名誉教授は、ボイラ設備の仕様と能力を考慮した「燃料用木質チップの品質規格(試案)」を発表している【23】。

木質ペレットの規格は、これまでペレットクラブと日本木質ペレット協会が別々に自主規格を定めていたが、2012年に双方の規格を統合した。日本木質ペレット協会は、「燃料用優良木質ペレット認証制度」を創設した【24】。

また、FITの策定プロセスにおいて、風力、太陽光、地熱などにはある事業者をまとめる団体がバイオマスになく、情報集約がスムーズでなかったことから、2012年7月、木質バイオマスエネルギー利用推進協議会が設立され、会長にNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事でもある熊崎実氏が就任し、事務局は日本木質ペレット協会に置かれた。同協議会は、木質バイオマス利用に関する勉強会を開催し、FITやバイオマス燃料の規格などについて議論を重ねている。

木質ボイラー導入のノウハウも次第に蓄積されつつある。㈱森のエネルギー研究所は2012年3月、木質バイオマスボイラー導入指針をまとめた【25】。2012年度には「木質バイオマスの効率的利用を図るための技術支援」事業が、森林環境リアライズ他によって実施され、木質バイオマスのボイラー導入事例の課題を抽出し、木質バイオマスボイラー導入のためのテキストも作成される【26】。

さらに林野庁は2013年度事業として、地域材の購入にポイントがつき、商品と交換できる木材利用ポイントを開始した【27】。木質ペレットストーブや薪ストーブの購入にも適用される。国産材利用推進に効果的な政策と考えられるが、単年度事業ではなく、継続して実施されることが望まれる。また、国内クレジットとJ-VERの二本立てだった日本国内の排出削減対策および吸収源対策の制度が、2013年度より、J-クレジット制度に一本化されることとなった【28】。

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2. バランスの取れた木質バイオマス利用の推進を

「東北・木質バイオマスシンポジウム2013」でも議論されたように、木質バイオマスは基本的に製材の際の副産物であり、林産業の健全な発展とともに進めるべきものである。

バイオマス発電は、特に直接燃焼においては規模の経済が働く。とりわけ熱利用を行わない発電のみの施設の場合、少なくとも5000kW以上の規模でないと成立しにくい。この5,000kW規模の木質バイオマス発電では10万㎥程度(未利用材の場合、含水率が高く体積あたりの熱量が建設廃材などに比べ低いため、より多くの資源が必要とされる)が、未利用材を経済的に収集できる範囲とされる30〜60km圏内で、この量を毎年、安定的に一定価格以下で調達確保することは簡単ではない。この量は、間伐なら2,000ha/年、皆伐なら450ha/年の面積にあたる【29】。

近代的バイオマス利用の経験が乏しく、人工林内の路網整備や製材業が盛んでなかった地域で、突然、大規模な木質バイオマス発電施設を建設することは、事業リスクが相当高いと考えられる。それよりも、暖房、給湯、事業用などの熱利用を中心に薪ストーブやバイオマスボイラーの導入を進めながら、木質バイオマスの流通システムを発展させ、条件が合えば製材所等で導入されているようなコジェネレーションシステムを図る方が、リスクははるかに低い。

バイオマスの熱利用推進には、例えば2010年から施行されている公共建築物等木材利用促進法では、木質バイオマスも対象としているが、公共建築の新築・改築時において木質ボイラーやストーブの設置の検討を義務付けるといったことも考えられる。

地域にバイオマスボイラーなどの設置や燃料供給を行う事業者が存在すれば、格段に普及しやすくなる【30】。メタン発酵など木質以外のバイオマスにおいても、経済性のあるバイオマス利用サービスを提供できるコンサルタントや施工業者などが増えることは、重要である。

民間施設や住宅においても、新築住宅・建築物の省エネ基準適合などに関し、同様の規定を設けることも考えられる。その場合、2013年度に実施される木材利用ポイントのような制度や、ESCOのようなファイナンスの制度を整備することも考えられる。

また、木質ボイラー設置事業者への、2013年度から一本化されるJ-クレジット制度などの取得支援も有効であろう(設置事業者が、サービスの一環として行うことも考えられる)。

一方、バイオマス発電の持続可能性基準の策定も、EUの動向やFITによる輸入バイオマスが急速に増大する見込みであることから、喫緊の課題である。

地域で地道に木質バイオマス利用に取り組む人々の声をすくいあげることで、持続可能なバイオマス利用の発展が加速されよう。

薪の宅配(写真提供:㈱DLD)

薪の宅配(写真提供:㈱DLD)

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コラム3 全国に広がる土佐の森方式・木の駅プロジェクト

土佐の森方式・自伐林業方式、また土佐の森方式を軽めにアレンジした木の駅プロジェクトは、東北地域のほか、全国に広がりつつある。土佐の森方式・自伐林業方式は既に30を超える地域で導入が開始され始め、検討中の地域も20地域を超えている。また2012年5月に第1回木の駅サミットが岐阜県恵那市で、第2回は2013年3月に愛知県豊田市で開催され、木の駅プロジェクトも増えつつある。

土佐の森方式や木の駅プロジェクトは、低質なC材を買取る「バイオマス基地」を地域に整備し、サラリーマンや農家が、安価な軽架線と軽トラで材を搬出し、「C材で晩酌を!」の掛け声のもと休日に一日作業すれば、数千円を稼げるしくみである。

通常C材は、3000円/トン程度の買取価格だが、多くの地域では補助金や地域の商店の協力を得て、商品券など地域通貨で買取価格を上乗せしている。このプロジェクトをきっかけに、毎日作業して月に20万円稼ぐ人、副業から林業専業に移行する人も出始め、最初に始まった高知県仁淀川流域では、6〜7人だった林家が5年で40人以上に増えた。

土佐の森方式では、チェーンソー、林内作業車、軽架線、小型ユンボなどシンプルな装備で林業を行い、生け花、キノコ、山菜、木酢液など林産物の多目的利用、その他農業や酪農、木材加工と組み合わせるケースもある。集積したC材は、製紙会社に売ったり、薪やチップとしてバイオマスボイラーで使われるケースが多い。

土佐の森林救援隊事務局長の中嶋健造氏は、「小規模林家は、自分所有の山なので愛情をもって持続可能な管理を行う。装備は低投資の労働集約型で、機械ではなく人にお金をかける。大規模林業モデルでは2000haの森林で4人の雇用を生むが、自伐林家方式ならその10倍の雇用が生まれる。森林組合などに委託すれば間伐はほとんど収入にならないが、自分でやれば稼げる」と語る。

種田山頭火が「分け入つても分け入つても青い山」と詠んだ高知県仁淀川町上名野川集落では、定年後に自伐林業を始めた親の経営が安定化したのを見て、息子も会社員を辞めて自伐林業を始めた。さらに、彼らの成功を見て、近所の人々にも自伐林業が広がった。その林業収入で、集落維持のための見守り(福祉)事業も始めた。限界集落が、まさによみがえったのである。

こうした方式は、オープンで大規模業者からボランティアまで色々な人が参加しやすい。行政、NPO、ヨソモノが喧々諤々(けんけんがくがく)議論をし、「木の駅は感動と悩みのるつぼ【*】」と言いながら、さまざまな困難を工夫して克服していく。自分たちで自分たちの地域をつくる、非常に有望な具体策の一つと言えるだろう。

「限界集落」で自伐林家を営んでいるKさん親子

「限界集落」で自伐林家を営んでいるKさん親子(写真提供:土佐の森林救援隊)

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