はじめに 
 トピックス 
 2003年の動向 
 資料編 

 

国際的動向

(1)ロシアが未批准、京都議定書いまだ発効せず

 2003年は、京都議定書の発効に必要なロシアの批准があるかどうかに振り回された年だった。2003年中にも批准すると観測されていたが、ロシアの関係者の発言は揺れ続け、結局2004年初頭になってもまだ、確たる結論は出ていない模様である。
 一方、京都議定書の発効をにらんだ動きは、内外で着実に進展している。世界銀行は2003年7月、途上国での温暖化防止対策を行う小規模クリーン開発メカニズム(CDM)事業のために、「コミュニティ開発炭素基金(CDCF)」を設立。日本からは新日本石油、出光興産、大和證券SMBC、沖縄電力らが各250万ドルを出資、見返りに35万トンのCO2クレジットを獲得することになる。

 

(2)国内の京都議定書対策

 環境省によると、日本の2001年度の温室効果ガスの総排出量は二酸化炭素換算で12億9,900万トンで、京都議定書の規定による基準年の総排出量と比べ、5.2%の増加となっている(日本の削減目標は基準年の6%減)。2000年度と比べると、2.5%の減少。総排出量の大部分(12億1,400万トン)を占めるCO2排出量では、前年比で産業部門と家庭部門が減少、運輸と業務そのほか部門では増加となっている*。
 京都議定書への対策の一つとして政府は、企業が海外で実施する温暖化ガス削減プロジェクトの費用の1/3を補助する事業を2003年度から始める。費用の1/3を国が負担し、企業が取得した排出権のうち補助に見合う分を国が獲得する。石油特別会計から3億円を計上する。
 また環境省は、温室効果ガス排出量取引試行事業への参加企業を中心メンバーとし、この試行事業の内容を話し合って決めるための「温室効果ガス排出量取引に関する企業実務研究会」を2003年6月に設置。12月には、環境省は42社の参加で仮想の取引市場で排出枠の取引を行い、計67件の排出枠売買契約(仮想)が成立。計40万5,000t-CO2の排出枠が移転された。経済産業省も2004年初頭に158社が参加する大規模な国内排出量取引の試行実験を行う予定であるなど、排出権取引市場に向けての取組みは着実に進んでいる。

 

(3)その他の国際的動向

 2003年で目立ったのは、EUの取り組みである。3月、欧州連合(EU)財務省会合で地球温暖化防止対策として、ガソリンや天然ガスなどに課税する方式の環境税導入で基本合意。EUが最低税率を示し、各国は自国の税制に従ってそれ以上の税率で課税する。
 5月には、「運輸部門におけるバイオ燃料またはその他再生可能エネルギー使用促進に関するEU指令」を公布。EU各国は、2004年末までにこの指令の国内法への導入が義務づけられる。バイオマス燃料ほか再生可能燃料の市場に占めるシェアを、2005年末までに2%、2010年までに5.75%とし、目標値が基準値を下回った場合、その加盟国は欧州委員会に正当な理由を説明する義務がある。
 さらにEUの閣僚理事会は、7月、温室効果ガスの排出取引指令案を最終的に採択した。一方、米国でも10月にシカゴ気候取引所(CCX)で、CO2排出権の入札が実施されている。

(写真提供:平川良信)

 

コラム◇「CDMプロジェクトに取り組む日本企業の現状」 
<横浜市立大学大学院客員教授・荏原製作所参与 竹林征雄>


 クリーン開発メカニズム(CDM)は、一般の企業ではあまりなじみのない言葉である。しかし「エネルギー多消費型企業」「地球温暖化、炭酸ガス排出削減に敏感な環境装置企業」、そして京都メカニズムによる温暖化ガス排出取引によるニュービジネスモデル構築を目指す「金融やコンサル企業」などがエネルギー環境産業の新分野として捉えCDMビジネスに参入を始めた。

 ざっと傾向を見ると、当初は植林ビジネスとセットで進出した企業、そして次には老朽化した石炭焚ボイラーなどのリハビリ型、ここ2、3年は籾殻発電に代表されるバイオマス焼却ないしガス化発電、パームオイル製造における排水処理からのメタン回収発電、廃棄物埋立処分場からのメタン、または堆肥回収などのバイオマス絡みの案件、そして再生可能なエネルギー活用型案件(風力、水力、太陽光発電)が多くなってきている。
 アジアと言っても進出している国は今のところ、中国、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどがターゲットとなっている。今後はミャンマー、インドなども注目すべき国であろう。

 現状、進出企業はプロジェクトデザインでのValidation(プロジェクト適正の評価)や温暖化ガス排出のベースライン設定をどのように決めるか、カウンターパートとの合意形成方法、プロジェクトの有効性審査・登録、モニタリング方法の確立と大変関門も多く、一筋縄では行かぬことに戸惑いを感じていると考える。CDMビジネスの入り口を抜けた所で、ようやくCDMプロジェクトがどのような性質のものかを理解し、覚悟を決め進出しないと、将来のパイにはありつけぬことを企業は悟っているといったところであろう。