技術・学術界の動向

コラム◇「バイオマスをめぐる2003年の技術動向」
<広島大学大学院工学研究科助教授 松村幸彦>

 バイオマスについては、既に技術開発の段階は終わり、適切な政策による導入の段階であるというのが国際的な大きな見方ではあるが、それでも日本のバイオマスで必要とされる小規模での利用技術や、従来以上の有効利用を行うための次世代技術は求められており、各種の研究開発が進められている。

 国内での技術開発は、大学や企業における個別の研究開発の他、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や農林水産省などの枠組を用いて進められている。特に前者は、バイオマス等高効率利用技術開発の枠組みで11本の研究開発を進めており、その成果が期待される。

 バイオマスの利用技術を考える時に、乾燥系の「乾いた」バイオマスと含水系の「濡れた」バイオマスに分けて考えると理解しやすいので、以下ではこのそれぞれについて動向を簡単に述べる。

 「乾いた」バイオマスである木質系や草本系のバイオマスについては、大規模な利用技術として、石炭火力発電所で石炭と一緒に燃焼する混焼技術の研究が進められている。NEDOの枠組みでは中国電力他が研究開発を行い、今年度終了、実証に移行すると見られている。
 このほか、木質系バイオマスからエタノールを得るための技術開発が進められている。小規模な利用としては、ガス化技術が次世代技術として期待されており、NEDOバイオマス等高効率利用技術開発でも3プログラムを採択している。タール処理の問題があり、触媒開発や高温における熱分解などの工夫が検討されている。

 「濡れた」バイオマスである家畜排せつ物、下水汚泥、食品系廃棄物などの利用については、従来技術であるメタン発酵の実証・導入事例が相次ぐと同時に、この高効率化を目指した水素発酵や水熱前処理などの各種前処理技術や、アセトン・ブタノール発酵など他の処理との複合技術が進められている。

 次世代技術としては、高温高圧の水の中でバイオマスを分解ガス化する超臨界水ガス化の技術開発が進められており、実証試験に向けての検討が行われている。超臨界水ガス化技術ではメタン発酵で数週間かかる反応を数分で完了させ、また、残存有機物を微量とすることができるので、発酵残さおよび排水処理が大きな問題となるメタン発酵に代わる技術として、期待されている。2010年を目指して既存技術の改良と導入を進め、さらに先を見て次世代高効率技術を開発するよう、戦略的な技術開発が求められている。

 

コラム◇「バイオマスをめぐる2003年の学術界の動向」
<東京農工大学大学院生物システム応用科学研究科教授 堀尾正靭>

 2003年、バイオマス・ニッポン総合戦略('02.12)に呼応するかのように、各学会でのバイオマス企画が噴出した。日本エネルギー学会では、バイオマス部会(代表:横山伸也氏)への入会が相次ぎ、多業種の人々の自己紹介が絶えずメールで配信され、全国に広がる新しい波を実感させてくれた。同部会では、各学会の講演大会を発表ごとにコメント付で紹介している。このような「批評精神」は、多岐にわたるバイオマス研究が、その歴史的な使命を果たす上で重要な意義を持つと思われる。

 化学工学会、日本木材学会、エネルギー・資源学会、木質バイオマス研究会、合同交流会などでもバイオマス関連の講演が多数行われた。また、6月には木質炭化学会が発足した。しかし、個別技術研究への埋没は、バイオマス研究としては本質的課題を忘れることになりかねない。今後は、個別技術研究を全体システム(輸送法・経済性・利用形態・パートナーシップ構築等を含む)の展望の中に位置づけた研究と討論のスタイルを普及させていく必要がある。バイオマス利用こそ、石油漬け文明からの脱却や、グローバリゼーションの中で貧困化する地域文化の見直し、地域コミュニティの内発的再生などと強くリンクさせつつ前進させるべきものだからである。

 私達のグループでは、サミット2003「100年先から見てみよう―地域・バイオマス・新エネルギー」(11月15日;東京ビッグサイト)などを通じて、そのための議論を進めている。今後は、上記学会等と農村計画学会、環境経済政策学会等、関連する社会科学系学会との連携による研究・討論が望まれる。

参考:日本エネルギー学会バイオマス部会HP http://www.jie.or.jp/biomass/b-hmpg.html

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