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トピックス 木質バイオマス利用をめぐる現状と課題

3 木質バイオマス熱利用拡大へ向けての課題と方策

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1. 熱エネルギーの合理的利用とは

エネルギーは、熱や光や電気に変化することはあっても、なくなることはない(熱力学第一法則)。また、熱を100%動力に変えることはできない(熱力学第二法則)。熱を無駄なく使うというとき、熱のエネルギー(量)と、熱のエクセルギー(質)の二つの視点がある。エクセルギーとは、「熱が生み出せる最大の動力」のことである。温度が高いほど、動力を生み出せ、環境温度に近いほど動力をつくれない。温度が熱の質を表している。

燃料を燃やしてお風呂を沸かすと、ボイラー効率は90%以上と高いので量的な無駄は少ないが、1,000℃以上ある燃焼温度を45℃程度のお湯のために使うため、質的には無駄がある。電気ポットでお湯を沸かすのは質的に高い動力が100℃の熱になるので無駄がある。量的には、電気ポット自体の効率は高いが、もともと発電の際に60%程度の熱を捨て、送電を経てまた熱に変換するため、ロスが多い。電力は二次エネルギー、燃料は一次エネルギーで区別する必要がある。

エネルギーの質の無駄は、温度の不整合から起こる。燃料を燃やすと1,500℃の温度になり、発電に使える質の高いエネルギーである。そこから熱が残りとして出てくる。これを使えると、無駄が少なくなる。高い温度が必要なものから順に使う、熱の多段階利用(ヒートカスケードシステム)は、質的な無駄をできるだけ減らして熱エネルギーを効率的に使うやり方である。

熱利用の温度分布は、さまざまであり、100℃以下でも需要がある(下図)。

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図:熱利用施設における熱利用温度帯

図:熱利用施設における熱利用温度帯

出所:秋澤淳氏 資料(データ出所:バイオマス技術ハンドブック)

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熱から動力をどうつくるか。高温熱源と低温熱源があって、落ちてくる熱を仕事に変えるのが、熱機関の役割である。ガスタービン、ガスエンジンで発電し、排ガスを蒸気や温水、吸収冷凍機で熱利用に使う場合、発電効率が落ちてもトータルとしての効率は上がる。これが、コジェネレーションシステムである。

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図:分散型熱エネルギー源

図:熱利用施設における熱利用温度帯

出所:秋澤淳氏 資料

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熱から動力をどうつくるか。高温熱源と低温熱源があって、落ちてくる熱を仕事に変えるのが、熱機関の役割である。ガスタービン、ガスエンジンで発電し、排ガスを蒸気や温水、吸収冷凍機で熱利用に使う場合、発電効率が落ちてもトータルとしての効率は上がる。これが、コジェネレーションシステムである。

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熱は、遠くまで運ぶことが難しく、地産地消によってエネルギーの有効利用が図られる。デンマークのコペンハーゲン郊外のごみ焼却施設では、発電し、熱導管を通じて市街地へ熱供給を行っている。わらも燃やしている。地域熱供給の面的ネットワークがヨーロッパではかなり普及しているが、日本での大規模な導入例は少ない。

熱から冷熱をつくることもできる。家庭では電気で冷房しているが、90℃以上の熱なら吸収冷凍機で、70〜80℃の熱なら吸着冷凍機で冷熱をつくることができ、業務用では普及している。木質ペレット焚き吸収冷凍機もあり、熱駆動冷凍機は熱源にさまざまな燃料を選べる。

コジェネレーションは電気と熱を同時に生産するが、電力に合わせて運用すると熱の需要と過不足が生じ、調整するためのバッファが必要になる。電気を溜めるより温水タンクで熱を溜める方が安価である。

再生可能熱や排熱の利用を促進するためには、社会的な仕組みづくりが課題である。現在、社会的制度として、グリーン熱証書のような再生可能熱の環境価値を移転する仕組みがある。また、地域的な熱負荷の見える化も重要と考えられる。日本では一般化されたものはあまりないが、例えば英国では、熱負荷をマップ化し、公開している(下図)。

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図:英国の熱利用地図

図:英国の熱利用地図

出所:秋澤淳氏 資料

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シンポジウム「点から面へ 〜岩手県の経験と
今後の木質バイオマス熱利用拡大のための具体策〜」

入浴施設、福祉施設、宿泊施設、病院、食品工場などでは、灯油・重油ボイラーによって熱利用を行っているが、これらは石油ではなく、地域の未利用の木材を使う木質ボイラーで代替することが可能である。しかし、全国的にはまだ木質ボイラーなどの熱利用機器が割高であること、取扱業者が限られていること、燃料供給インフラが整備されていない等の理由から、普及が遅れており、「点」にとどまっているのが現状である。

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岩手県は、10年以上にわたり、木質ペレットや木質チップの利用、ストーブやボイラーの開発、普及を行ってきており、全国でも先進的な木質バイオマス利用を行っている。

公共機関を中心に100台近い木質ボイラーが導入されている他、紫波町駅前開発オガールにおける木質チップボイラーによる地域熱供給の開始、バイオマス燃焼機器事業者の存在、木質燃料供給インフラの整備、自治体職員への木質バイオマス利用についての知識の広がり、点から面としての普及が進みつつあるなど、他地域の参考になる事例が多数存在している。

その一方で、岩手県においても木質チップ供給網の整備が半ばであるといった課題もある。

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木質バイオマス熱利用先進地域である岩手県の事例の調査研究・分析を踏まえ、今後、日本全国での木質バイオマス熱利用を「点」から「面」へ拡大する方策について議論し、関係者へ具体的な提案を行うことで利用普及に資することを目的に、2016年4月5日、シンポジウム「点から面へ〜岩手県の経験と今後の木質バイオマス熱利用拡大のための具体策」が都内で開催された。

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秋澤淳(東京農工大学工学研究院教授)「熱エネルギーの合理的利用とは」、中村文治(岩手県林業技術センター上席専門研究員)「岩手県の木質バイオマス利用普及への取り組みと課題〜チップボイラーを中心に〜」、山口勝洋(サステナジー株式会社代表取締役)「木質バイオマス熱供給事業の実践と考え方〜紫波町オガールを事例に〜」の各講演が行われた。

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パネルディスカッションでは、伊藤幸男(岩手大学農学部准教授)、遠藤元治(岩手大学農学部伊藤研究室)、出納雅人(株式会社エジソンパワーバイオガス事業本部本部長)が加わり、司会は泊みゆき(NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長)が務めた。官庁、自治体、企業、大学、NPO、メディアなど約90人が参加された。本シンポジウムは、W-BRIDGE研究活動助成により、開催された。

本章は、このシンポジウムでの講演内容・資料及び議論を、事務局の責任で再構成したものである【*】。

シンポジウムの様子
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  • * 当日の配布資料は、こちらに掲載されている。
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2. 岩手県の木質バイオマス利用への取り組みと課題

岩手県では20年近く前から、木質バイオマス利用の取り組みを行ってきた。その下地には、日本でほぼ唯一の木質ペレット工場が稼動し続けていたこと、温水プールなどでペレットボイラーが利用されていたことがある。

スウェーデンの木質バイオマス利用を知る機会があり、関係者がスウェーデンに視察に行き、2000年に岩手・木質バイオマス研究会が発足した。木質バイオマスは、増田寛也知事(当時)の政策の柱に取り入れられ、県庁内に部局横断的な「岩手県木質バイオマスエネルギー利用促進会議」が設置された。スウェーデンの関係者から、木質バイオマスはまず熱利用の確立が先決、と教わった。

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2003年から「岩手木質バイオマスエネルギー利用プラン」が始まり、スイス製のチップボイラーが県内に導入された。輸入されたチップボイラーのようなウェットチップ向け小型ボイラーが国内になかったため、岩手型チップボイラーの開発を行った。ペレットストーブの開発や木質バイオマスサミットの開催なども行った。

2007年からの第二ステージは、木質バイオマスの産業化や地域への定着を目指して、ペレットストーブの普及に力を入れた。2011年に第三ステージが始まろうとするところで東日本大震災が起き、被災者支援で薪ボイラーの導入なども行った。2015年からは「岩手木質バイオマス利用展開指針」として、燃焼機器の導入や木質燃料の安定供給の促進を行っているところである。

木質バイオマス燃料として、薪、ペレット、チップそれぞれに長所短所がある。ペレットは製材端材からつくるのはいいが、原木からつくると高コストになり、製材端材の原料がないと成立しにくい。チップはそうした量的制約が少ない。岩手県には、製紙用チップを生産するチップ工場が多くある。木質バイオマス利用の産業化を考えた場合、チップというのが有用だろう。

チップボイラーの運用は、掃除する手間がかかるのと、灰が週に10kgほど出るが、チップの品質がよければ特に難しいものではない。

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図:岩手県のチップボイラー(温水器)の導入状況

図:岩手県のチップボイラー(温水器)の導入状況

出所:中村文治氏 資料

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2014年に民間でのチップボイラーの導入が増えた。時期的には、石油価格の上昇と連動している。それまで主に公共施設で利用してきたが、一年中お湯を使うような施設では元がとれるというのがわかってきたということだろう。

チップボイラーにはそれぞれ、原料、水分、寸法、灰分等の規格にあった燃料用チップが必要で、特に水分が大事である。建材ではドライベースの含水率が使われるが、燃料ではウェットベースの含水率=水分が使用されるので、注意が必要である。水分が多いと重くなるが、燃料としての質は悪くなる。スギ、アカマツは水分が多いが、カラマツは比較的少なく、燃料として使いやすい。また、樹種によってその比重の違いから単位重量当たりの容積が変わる。現在、灯油価格が下がっており、競争力が下がっている。ただ、石油のような外部要因による変動が少ないため、チップ価格は安定している。

岩手県林業技術センターでは、暖房用にチップボイラーを導入しているが、水分45%のM45規格に相当するチップを3,800円/㎥(チップ材積)で買っている。1㎥あたり240kgの重さだとすると、熱量単価は1.88円/MJになる。3,800円という価格は、製紙用チップよりかなり高く、また、この価格から原木価格を逆算すると、計算上はFITの木質バイオマス発電所の原木買取価格と比べても遜色ない。一方、需要側から見ると従来は灯油より3〜4割安く、現在はほぼ同等である。

燃料用チップには水分管理が必要だが、その分、製紙用チップより手間がかかる。燃料チップのフェアな取引のためには、燃料の価値は水分の割合で区分し、熱量単価で評価しないと、良質の燃料を供給する動機づけにならない。

熱利用を推進するためには、特別な制度は必要なく、通常の市場原理で事足りるが、そのためには、燃料チップの規格の普及を進め、供給者の水分管理ノウハウを普及・確立する必要がある。そして、規格に合った燃料チップが、注文すれば速やかに配達される仕組みが必要である。

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3. 木質バイオマス熱供給事業の実践例:紫波町オガール

岩手県紫波町の駅前再開発の一環で、木質バイオマスによる熱供給事業を行っている。この、オガールタウン地域熱供給サービスでは、紫波町役場庁舎、宿泊施設・体育館、住宅に熱供給しており、今後、商業施設や保育園にも拡大する予定である。住宅は、構造材にも内装材にも地元産材を使い、高い断熱基準を満たしている。給湯(お風呂)と輻射式の暖房を熱供給で行っている。

燃料に使うチップは、素材業者のほか、「間伐運び隊」という木の駅的なしくみで集めている。町民ボランティアが間伐材を運ぶと、5,000円/tの紫波町エコbeeクーポン(地域通貨)がもらえ、商店街の買い物や地域熱供給の支払いにも使える。つまり、熱を自給できる。集まった材は水分30%をめざして乾燥し、農林公社がチップ化し、エネルギーステーションへ運ぶ。年間使用量は、生木で1,500tと無理のない量である。

地域熱供給は、面全体を一度に再生可能エネルギー化ができるということで、政策的に進められた。配管は、見積もりをとってスイス製を採用した。新しい街で舗装ができるまでに配管できてよかったが、他の工事の計画に合わせる必要があり、コストアップ要因になった。

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ボイラーは、500kWのいわて型チップボイラーで、2週間に一度手作業での掃除が必要。冷房用に吸収冷凍機もある。チップ貯蔵は、地下を掘らない方が建設費はかからないが、ここでは土地利用の関係で地下式になった。現在、熱供給を行っている住宅は、契約を含め8軒。暖房、冷房は季節性があるが、給湯は通年で安定した重要がある。

地域経済効果を見ると、木質バイオマスは燃料供給で地域に回るお金が多い。地域に落ちた収入は、またある程度は地域に使うという乗数効果があるので、2倍強の経済効果がある。木質バイオマス熱供給では、山からのチップ供給、配管、需要との調整、ファイナンスなど公共、民間の関係者みんなで、成立させるぞという気合が必要である。これはかなり大変で、岩手県沿岸の復興市街地で地域熱供給の案が出たが、相当に検討したものの最終的にまとまらなかった。

紫波町では、材の提供でも、県の元職員で木質バイオマスに関わっていた方がいて、調整してくれたことも大きかった。また、最大の熱需要家である役場庁舎の熱料金抑制もあり、チップ価格は努力により達しうるコストに抑えて設定された。地元金融機関からも20年の融資という、特別な支援・協力を受けている。この熱供給のしくみを運営しているのが、紫波グリーンエネルギー株式会社で、配管はこの会社が所有している。

熱供給事業では、料金や組織形態など一定の条件の下に、地区内の加入を義務付けたり、加入期限をルール化するなど、政策的な担保が重要だ。さまざまなタイプの需要家を抱えるのも事業にとってのリスクヘッジになる。

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図:木質温冷熱・発電利用の考え方

図:木質温冷熱・発電利用の考え方

出所:山口勝洋氏 資料

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街ぐるみで取り組める場合は、単発の民間事業では採用されない再生可能エネルギーについても、合算での採算を組むことができ、公益的な恩恵の範囲が広げられる。庁舎単独でチップボイラーを導入するよりも、同様のコストでより広い範囲に供給することができる。中規模以上のバイオガスの売電などと組み合わせることで、普及するチャンスになりうるだろう。

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木質バイオマスは、蓄積性も備えた資源だが、石油に比べるとエネルギー密度は低い。石油はあまりにも優秀で設備の面で楽だったが、石油を暖房や給湯に使うのは、もったいなさすぎる。地域で熱を共同で利用することで、低級なエネルギー需要に高級なエネルギー資源を費やしている現状を改め、持続可能な地域資源の有効活用ができるようになる。従来は使えなかった、低質な熱エネルギー資源を手間ひまかけて使えるようにするのが、地域熱供給の本質である。

今後は、オーストリアのような小規模の木質バイオマス熱供給事業に取り組みたい。

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4. 岩手県のチップボイラーの導入及び燃料チップの供給の実態

岩手県では、2016年3月現在、全国最多の53台のチップボイラーが導入されている。東日本大震災を機に、公共施設から民間に、海外のボイラーから国産に、林野庁の補助金から他の省庁のものに、という変化が見られる。震災前、チップ供給は、自治体の要請を受けた森林組合が主に行ってきたが、その後チップ供給業者が行うようになっている。初期には供給されるチップの質と、燃焼機器の不一致があった。岩手県では木材加工が盛んで、大手の製材・木材加工業は木屑焚きボイラーを自家使用している。そのインフラやノウハウの展開での燃料チップ供給の潜在性はある。お茶の乾燥機を改良して製造した乾燥チップの利用や、乾燥チップの外販の動きも始まった。

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図:岩手県における木質チップ利用の事例

図:岩手県における木質チップ利用の事例

出所:遠藤元治氏 資料

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チップ水分率は、季節変動が大きい。燃料用チップの課題は、品質と価格の透明性の確立である。燃料用チップの製造・供給に供給者は手間をかけており、このコストを反映した価格体系を供給者と利用者が共有・納得する市場の形成が必要である。品質安定化と安定供給の確立も重要だが、個々の供給者が独自で工夫しているのが実情である。

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5. 点から面へ 〜木質バイオマス熱利用拡大のための具体策〜

そもそも、木質バイオマス熱利用を行う意味とは何か。現在、エネルギー代金(電気、ガス、ガソリン等)として、全国の自治体の7割で地域総生産の5%相当額以上、151自治体で10%以上の資金が地域外に流出し、日本全体では、化石燃料の輸入で27兆円が出て行っている【*35】。これらの一部でも地域内で生産できれば、大きな経済・雇用効果がある。今、「自治体消滅」が現実味をもちつつあるが、食べていける収入・職があれば、IターンやUターンは居つく。事業リスクの高い木質バイオマス発電の前に、利用効率が高く小規模でも事業性が高いバイオマス熱利用に目を向けるのは、合理的である。

ただし、そこでは木質バイオマス利用が「事業」になっている必要がある。

木質バイオマス熱利用拡大のための具体策としては、次のようなものが考えられる。

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6. 今は近代的木質バイオマス利用の黎明期

今のバイオマス発電ブームは、FITで制度的につくられたものだが、安倍政権以降の金融の量的緩和も背景にあるのではないか。株式投資にはお金が回るが、製造業の設備投資にお金が回らない、ものをつくっても売れない成熟した時代に日本は入っている。そのなかでFITによる木質バイオマス発電が、安定した投資先としてとらえられている可能性があり、短期間での多数の計画が乱立したことは異常な印象を受ける。危惧しているのは、リゾート法の経験で、1980年代に膨大な貿易黒字を内需にと、日本中の山村にリゾート施設がつくられたが、地域の発展にあまり寄与せず、その後始末に非常に苦労した。木質バイオマス発電事業がそうならなければいい、と思っている。

木質バイオマス発電の多くは地域外の資本によるものだが、地域の持続的な発展によりそっているかが重要であろう。この先20、30年で、農山村では生産年齢が半減し、少ない人数で地域を支えていかなければならない。あらゆることをスマート化し、付加価値をつけていく、そしてそれを再配分するしくみをつくらなくてはならない。こうした視点から今稼動しようとしている木質バイオマス発電はどう評価されるだろうか。今年、2016年に稼動する発電所がたくさんあるが、農山村が正念場を迎える20年後に調達期間が終わる。そのとき撤退するとなれば、地域への影響は少なくないだろう。一方、小規模分散型の熱利用は、農山村地域の将来像と親和性があるのではないかと期待している。

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今は、近代的な木質バイオマス利用の黎明期ないしは初発の段階にあり、技術や制度についてのきめ細かい積み重ねがまだまだ必要だろう。ボイラーなど燃焼機器は性能の良いヨーロッパのものが導入されているが、燃料供給から熱需要にいたる一連の体系化がなされておらず、特に日本の特質を踏まえた体系化が急がれているように思われる。具体的には、スギを燃料にするにはひと手間かかることや、熱需要の一日あるいは一年の変動が大きいこと、地域差があることなどである。これらの積み重ねがなお必要で、普及には時間がかかるのではないか。さらに、原油安と木質バイオマス発電がかく乱要因になっている。

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もう一点は、誰のためのどういった熱需要に対応していくのかという、需用者側の視点が足りないように思われる。ユーザーのライフスタイルや価値観に応えるようなエネルギーサービスが展開できるか、といったことも重要になってくるのではと思っている。

ビジネス化を実現し、低コストで合理的な事業になっていくことが必要条件としてあるかもしれないが、それが農山村を活性化させ定住化に結びつくかは、わからない。若者の田園回帰が始まっているが、かつてと違い、自分たちの価値観、ライフスタイルを実現しようとして定住している事例が数多く見られるようになった。人材育成も、単に技術者を育成するというだけでなく、地域に貢献したいという若者の価値観を受け止めた人づくりという視点が大切になるだろう。

一方で、食べていける収入と価値観、その両立が必要だという考え方もある。

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7. チップ供給網の整備

岩手県では、森林組合が最初に燃料用チップを供給する際、正月も含め一年中対応しなければならないことに難色を示したが、やってみると収入になることがわかり、現在では不満を聞かない。複数の森林組合が協力して安定したチップ供給を行っている。

製材所で出る少量の端材は、製紙会社に売っても買いたたかれる。一関市で製材所の端材チップを市内のボイラーに回したら、需要・供給の双方で幸いだったり、陸前高田市でプレカット工場がチップを給食センターに供給し、喜ばれたという事例がある。製材所のネットワークで、一社で足りなければ何社かで融通し合うというのが可能だが、そういうしくみがまだ整備されていない。近くに熱需要があれば、小規模対小規模でうまくマッチングできるとよい。

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チップ専業の場合、チップ原料を確保する必要があり、素材生産業者など原料を供給してくれる人がいないと成り立たない。遠くに輸送するとガソリンを消費するしコストもかかるので意味がない。いかに近場で需要者を見つけるか、マッチングと営業努力が重要だ。

オヤマダエンジニアリングが長野県の病院に導入した際には、ユーザー(病院側)の要望を受けた東京ガスエンジニアリングソリューションズという会社からオヤマダエンジニアリングにチップボイラー導入の依頼があり、実現した。そこにはチップ供給網がなかったので、オヤマダエンジニアリングのアドバイス等で森林組合に依頼してつくった。

黎明期にはマッチングも有効だが、しだいに普通に灯油や重油のように注文すれば配達されるものにしていくことが大事である【*38】

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8. 人材育成と熱需要についての知見の蓄積

ドイツの職業訓練学校には、太陽熱温水器を取り付ける実習など、再生可能エネルギーのプログラムがある。工業高校や農業高校といった既存の教育のプログラムに、バイオマス利用も入れるというのは考えられるのではないか。安全教育も重要である。

2017年に、いわて林業アカデミーを開講する予定で準備している。そのカリキュラムに木質ボイラーを入れることはありうる。ボイラーの視察だけでなく学生が使ってみることも、協力を得られるところと交渉し、考えたい。

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ノウハウを伝える方法の一つに、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)がある。講習を受けただけでは、ボイラーを動かしたり、チップ供給網をつくることは難しい。実際に運用しているところでしばらく働きながら学ぶ、というのは実践的である。研修、インターン、出向等、費用や給与をどこが持つか、待遇など条件はケースバイケースでさまざまありうる。木質バイオマス関係の行政機関、団体、企業等でのOJT受け入れについて、インターネットサイトでの公開やマッチングなどは効果が期待できるのではないか【*39】。また、木質バイオマスや林業が進んでいるところへ、自治体間の横の出向(市町村から市町村へ)もノウハウの伝達手段として有効ではないか。

日本では、基本的な熱需要についての知見の集積も未発達である。日本の産業用熱利用は蒸気が中心だが、ヨーロッパでは、板や内装材で中低温の熱利用が品質向上やブランディングなどの観点から進んでいる。チップ乾燥といった乾燥も熱利用であり、食品加工などでも中低温の熱利用の観点から見直せるのではないか。コジェネレーション、排熱利用、太陽熱温水器など、温暖化対策としても熱利用は費用対効果にすぐれ、そのなかに木質バイオマスが入るところに入れるということではないか。

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コラム① 低質材市場と木質燃料ビジネス

木質バイオマスの利用を促進するしくみのひとつに、低質材市場がある。

福岡県糸島市は、公設民営の貯木場、伊都山燦(いとさんさん)を設置した。トラックスケールのある既存施設の敷地を借り上げ、(株)伊万里木材市場に運営を委託。2012年から木材を受け入れ始め、チップ材および建築用材を1年目に2,203t、二年目に4,375t、三年目は8カ月で3,418tを受け入れている。糸島市からの木材搬出量も、2012年に1,447t、2013年に2,128t、2014年に5,335tと順調に増加している。これまでは50km以上離れた木材市場に運んだため、多くの材の価格が合わず利用されなかったが、現在は、地元の自伐林家が間伐材を、工事会社が支障木を、造園業者が剪定枝をといったように持ち込まれるようになった。

伊都山燦でチップ用材は、現金に加え、トンあたり3,000円の商品券が交付される(商品券分は市による補助)。需要側は、薪ストーブユーザー、チップ、製材所、木工所といったところに振り向けられる。こうして地域の木材が動き出したことで市内に製材工場がないといった課題も明確になり、販売先を福岡市や対岸の中国も視野に入れて、製材工場の誘致も検討されている。このように、地域林業の活性化へと結びついた【*1】。

全国40カ所以上に広がった「木の駅」や、薪の駅、薪ステーション、あるいはバイオマス発電所をきっかけに各地にバイオマス材の市場が続々つくられている【*2】。

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一方、木質ペレットはハンドリングがよく、欧米でも普及している木質燃料だが、日本での普及はまだあまり進んでいない。ペレット工場数は142(2014年)と増えたが、2014年の生産量は12.6万トンと低迷している。年産1,000トン以下が8割であり、1万トン以上が3工場で、この3工場で総生産量の5割を生産している。日本国内のペレット工場の平均稼動率は12.5%ときわめて低い【*3】。一定品質レベルに達しないペレットも多く、品質、コストにおいて消費者のニーズを取り込む努力が必要となっている。

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「通販生活」を発行している通信販売会社、カタログハウスは、茨城県、千葉県に自社の木質ペレット工場を建設、原木を林家等から購入し、ペレットストーブを販売した顧客向けにペレットを販売している【*4】。同社では現在、25名が、森林管理、林道づくり、伐採、搬出、ペレット製造、販売、配送、ペレットストーブ設置、メンテナンス、有償イベント、木製品製造、ボイラー販売等に従事している。こうした他産業からの参入は、木質バイオマスビジネスの活性化につながるだろう。

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カタログハウスのペレット工場に持ち込まれた原木

カタログハウスのペレット工場に持ち込まれた原木

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コラム② 木質バイオマスガス化発電と太陽光発電

木質バイオマス蒸気発電の導入は、FIT制度導入時点では10MW規模までを想定していたのだろうが、FIT価格が32円/kWと大変高いことから利益追求に走り、大規模化し、グレーゾーンの海外材混合使用の巨大発電施設も出現している。これは制度設計に課題があると考える。最近の大型木質バイオマス発電事業者では燃料の入手難、太陽光発電事業者ではFIT価格の引き下げ、さらに2MW未満の未利用木質バイオマス発電ではFIT価格が40円/kWとなったことの3点から、小規模木質バイオマス発電事業へ参入し始めるケースが見られ始めた。木質バイオマスの発電利用は森林、木、燃料生産、発電技術など大変奥が深く、これに地域の特性が加わり、建設・導入は地域関係性を含め容易ではないが、そのことを認識して参入する事業者は、少ない。

一方、この4年ほどで400kWクラス以下の木質バイオマス小規模熱電併給施設も出始めた。ここで、導入の最初の一歩として、自然エネルギーの太陽光発電と再生可能エネルギーである木質発電の相違を考えてみる。尚、比較に先立ち、太陽光などを再生可能エネルギーと言うのは奇異に感ずる。これは自然エネルギーと呼ぶ方が妥当である。自然エネルギーと再生可能エネルギーでは色々な条件の下では優劣差に濃淡があるが、相違すると思われることを小規模な50kW発電で比べて、列挙する。

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  • ① エネルギー源(燃料)価格は、無料と、ペレット4万円/t、チップ1万円/tであること
  • ② 建設コストは、太陽光では25万円/kWに対し木質発電は55万円/kW(ドイツ)と高額であること
  • ③ エネルギー源の持続的供給の面では、天候次第だが永続的である点と、森林管理とペレットやチップの生産供給を継続的に行うには多大な人的関与が必要なこと
  • ④ 熱の回収は、太陽光発電では行えないが、木質バイオマス発電では容易に熱の回収も行えること
  • ⑤ 建設面積は、広大な面積に対し、小スペースで済むこと
  • ⑥ 年間稼動時間は、太陽光では2,000時間以下(地域により異なる)に対し、木質発電は7,500時間
  • ⑦ 他との競合面では、場所により景観面から来る観光関係、木質発電では燃料調達面から木材の建築用材、パルプ用材などとの材の取り合い、競合が考えられること
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などで、地域の特性を十分検討し、どちらが地域振興に寄与するか雇用に繋がるかなどを見定めてエネルギーの導入を考える。参考までに50kWの木質発電と太陽光発電の単純概略比較(下表)を行った。

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表:50kW木質発電と太陽光発電の概略比較

発電形式 木質ガス化 太陽光
設備生産企業 BURKHARDT ソーラフロンティア
設置面積(㎡) 100 680
年間稼動時間(h) 8,000 1,900
発電量(万kWh) 38.4【*1】 9.5
熱量(kWh) 110  
設備費(万円) 7,000【*2】 1,630
発電収入(万円/年【*3】) 1,530 230
売熱収入(万円/年【*4】) 210  
単純収入計(万円/年) 1,740 230
燃料購入費(円/年【*5】) 1,250  
単純総収支(万円/年) 490 230
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何故50kW以下の規模で比較したかと言うと、2MW級木質発電は納入実績が少ない、熱電併給(CHP)ではないことからである。また、ドイツなど欧州では50から200kwクラスの木質ガス化発電が1000基以上設置され、相当数が地域熱供給事業に広く活用されているからである。

<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク副理事長 竹林 征雄>

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  • *1 発電端(発電効率25%)500kWh/世帯月消費では60世帯分。所内動力2kW/hを引いた値
  • *2 熱利用施設費約2,000万円を含む
  • *3 木質発電FIT単価40円/kW ,太陽光24円/kW
  • *4 110kW/h×8,000h×0.6=52.8万kw→190万MJ/Y
    A重油 51,213L/Y×52円/L×0.8=213万円
  • *5 ペレット40円/kg×39kg/h×8,000h=1,248万円
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