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2015年の動向

1 国際的な動向

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2015年12月、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新し、その実施状況を報告し、レビューを受けること等の内容を含む、パリ協定が採択された【*40】。これにより、バイオマス利用などの国際的な温暖化対策が加速すると見られる。

また、2015年9月、国連本部において国連持続可能な開発サミットが開催され、「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。SDGsは、ミレニアム開発目標に続く国際社会共通の目標であり、再生可能エネルギーの拡大を含む、17の目標と169のターゲットからなる【*41】

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自然エネルギー世界白書2015(REN21)によると、2014年の世界のバイオマス一次エネルギー総需要は約16,250TWh(58.5EJ)で、うち熱利用が12,500TWh(45EJ)と8割近くを占めた。バイオマス発電容量は2013年の88GWから2014年には93GWへ、同発電量は 396TWhから433TWhへと大幅に増加し、木質ペレットの生産量は2,410万tに達した。2014年のエタノール生産量は9,400万kl、バイオディーゼル生産量は2,970万klだった【*42】

世界バイオエネルギー協会によると、世界のバイオマス供給源の概観は、下図のようになっている【*43】

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図:世界のバイオマス供給源の概観

図:世界のバイオマス供給源の概観
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バイオマス、特に木質など固体バイオマスのエネルギー利用では、世界的に熱利用が主だが、日本では地域熱供給システムやセントラルヒーティングが普及しておらず、バイオマス熱利用が普及しにくい一因となっている。

バイオマス熱利用で先行するデンマークでは、100年以上前から発電所の排熱を使った地域熱供給が利用され、現在第4世代と呼ばれる、世界でも最も効率的な熱供給システムに移行しつつある。かつては200℃の蒸気で熱供給が行われていたが、現在は50〜60℃の温水で供給されるようになり、エネルギー効率が高まった。火力発電所をコジェネレーションにシフトさせ、風力発電で過剰となった電力でお湯をつくり貯湯槽で熱として蓄えるなど、既存技術の組み合わせや改良により、コストパフォーマンスのよいしくみをつくりあげてきた。2015年、日本でもデンマークのこうした技術を学ぶプログラムが始まっている【*45】

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図:デンマークにおける地域熱供給の燃料種別割合の推移【*44】

図:デンマークにおける地域熱供給の燃料種別割合の推移
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コラム③ オーストリア林業とバイオマス利用

ヨーロッパ中央に位置するオーストリアは、面積が8.3万㎢、人口850万人と、日本の面積の1/5、人口は1割弱である。急峻な地形や森林面積の割合の大きさから日本と類似しているが、森林面積は日本の1/6以下にもかかわらず、日本とほぼ同等の2,000万㎥近い素材を生産し、素材生産の44%は、農家林家と呼ばれる森林所有者によって供給されている【*1】。製材品の7割は輸出しており、日本への輸入でも、25%は木材である。木材・製紙、木材加工、木材関連、林業は、オーストリアのGDPの7.5%を占める。木質バイオマス利用も進んでおり、オーストリアの家庭の2割で75万台のバイオマス暖房機が使われている。山村ビジネスとしての木質バイオマスによる小規模地域熱供給も、急速に増加している【*2】。

小規模森林所有者などが林業を学ぶためのさまざまなプログラムや制度があり、仕事をしながら通ったり、国家試験を受けるモジュールもある。林業は労働災害も多いため、安全性向上にも力を入れている【*3】。

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最近、日本でもバイオマス集積場が各地につくられるようになったが、オーストリアのバイオマス集積場ビジネスは、よりアクティブである。例えば、シュタイアマルク州レオーベンのバイオマス集積場では、地元林家が、森の中にある未利用の残材などを購入し、乾燥し、チップや薪として販売するまでを事業として行っている。バイオマス材は、林業家が持ち込んだり、林道渡しで取引されることもある。材は、絶乾重量で取引される。含水率は、チップなら乾燥機で含水率がゼロになるまで乾燥させ、その前と後の重量を測る方法(オーブン法)で、丸太なら木の一部をチェーンソーで伐り、そのおがくずで測る。販売先は個人の住宅、中小ボイラー、地域熱供給施設、大型コジェネ施設など多岐にわたる。大型施設は、低質チップでも燃焼可能であり、引き取ったすべての資源を売るための重要な販売先である。チッパーは所有せず、必要に応じて移動式チッパーを時間契約で借りるなど、最小限の投資で、森の残材を処理して高品質のエネルギー製品を生み出すノウハウを蓄積している【*4】。

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駐日オーストリア大使館商務官のルイジ・フィノキアーロ氏は、「オーストリアにも、意欲の低い小規模森林所有者もいます。行政やフォレスターは、彼らが自分で稼ぐためのアドバイスなどはしますが、誰もお金をプレゼントしませんから、自分で努力するしかありません」と話す。

オーストリアでは、先端技術の開発よりむしろ、実用化された技術や方法を選択し、組み合わせ、生態的な持続可能性や安全性を確保しつつ、利益を得ているように思われる。日本でもこのように、行政は、教育、安全性向上、インフラ整備などを行うが、事業は林業者の創意工夫と努力で、絶え間なく改善されていく、当たり前の産業となることが、林業や木質バイオマス事業を成功させるために不可欠ではないかと考えられる。

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木質チップによる小規模地域熱供給施設

木質チップによる小規模地域熱供給施設

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なお、オーストリア大使館は、2013年から日本人向けのオーストリアでの林業・木質バイオマス研修を企画しており、参加者から高い評価を得ている【*5】。

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  • *1 久保山裕史 「オーストリアにおける川下発の林業関連組織イノベーション」『森林経営をめぐる組織イノベーション』 広報ブレイス
  • *2 例えば、熊崎実/沢辺攻 『木質資源とことん活用読本』 農文協 p128-137
  • *3 バイオマス産業社会ネットワーク第153回研究会「オーストリアの小規模林業と木質バイオマス利用の最新事情」ルイジ・フィノキアーロ氏資料
  • *4 西川力 『ヨーロッパ・バイオマス産業リポート なぜオーストリアは森でエネルギー自給できるのか』 築地書館
  • *5 2016年7月にオーストリアでの「日本人向けバイオマス技術特別講座」が企画されている。詳細は、オーストリア大使館商務部に問い合わせのこと
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